遺影(大阪府) | コワイハナシ47

遺影(大阪府)

Nさんは大阪でビデオ制作をしている。

ミナミのスタジオによく籠っては、明け方までビデオの編集をする毎日を送っている。ところでこのスタジオの入っているビルは、なんだか妙だという。

夜中、居残っていると、このスタジオ以外は無人のはずなのに、人の気配がする。

人の足音が、コツ、コツと廊下に響く。

ビデオの編集機やコンピュータも、故障したわけでもないのに頻繁に作動しなくなったり、エラーが起こる。ビデオデッキはたて続けに壊れた。いずれも原因はさっぱりわからない。手伝いに来たスタッフは「誰か来てはりません?」と後ろを振り向いては、不思議な顔をする。

このビルの玄関の横には水場があるのだが、その上に祭壇がある。月に何度かその前にお坊さんが立って、お経を唱えるのが決まりになっているようなのだ。いったいそれが何を意味するのかは、Nさんにもわからないという。

ある日、Nさんのもとに友人から電話があった。「知人のお母さんが亡くなったんだけど、明日のお葬式の様子をビデオに撮ってほしい」と言う。

葬式ビデオなどあまり撮りたくはなかったが、友人のたっての頼みなので引き受けることにした。京都太秦うずまさに住む料理研究家だったという初老の女性で、祭壇の遺影が、とてもおだやかで、やさしい顔をしていたので、撮影しながら何かいいことをしているという気分になったそうだ。

その夜、葬式で撮ったビデオの編集作業をしていた。

モニターの画面一杯に、その女性の遺影が広がる。モニターで見ても心が洗われるような気がして、なごんだという。音声スピーカーからは読経が流れて、スタジオ中にそれが浸透していくようだ。

翌日からは、妙な気配がなくなった。空気が違うのだそうだ。

(この部屋、こんなに明るかったっけ?)と思う。

機材が故障することもなくなった。

しばらくして、祭壇の前に立つお坊さんも来なくなったという。

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