誰 電話の後ろの声(岩手県奥州市 猿岩隧道) | コワイハナシ47

誰 電話の後ろの声(岩手県奥州市 猿岩隧道)

「最初は、遊び半分だったんです」

取材に応じてくれたKさんは、開口一番、うつむき加減にそうつぶやいた。

Kさんは、三十代後半の男性である。今から十五年前のことだという。当時、大学を卒業したばかりの彼は、親から買い与えられた自動車で友人とドライブを楽しむのが日課だったそうだ。

その年の夏、ひどく蒸し暑い日だったという。

夜、友人からKさんの携帯電話に連絡がかかってきたそうだ。それは、暇潰しに心霊スポットに行きたいので自動車を出さないかという誘いだった。

同じく暇を持て余していたKさんは二つ返事で答えると、自動車に乗り、友人の家を目指した。

友人は玄関先で待っていてくれた。横には女性が立っていて、最近付き合いだした彼女だという。長い黒髪がよく似合っていたが、人見知りなのか口数は少なかった。

Kさんは、軽く挨拶を交わすと二人を後部座席に乗せ、友人の道案内で心霊スポットに向かったそうだ。時計を見ると、二十三時を回っていた。そういう場所に行くには適した時間帯だ。

二時間ほど走ると、目的地が見えてきた。猿岩隧道だ。

空を見上げると、曇っていて月明かりは無い。街灯も無く、ヘッドライトだけが隧道を照らしている。その暗さに一瞬だけひるんだものの、Kさんは隧道の中へ自動車を進めた。

入り口こそコンクリートで舗装されていたが、奥は抉り取られた岩肌が露出する作りになっている。ヘッドライトをハイビームに切り替えるが、その明るさすら頼りないと思ってしまうくらい、あたりは闇に包まれていた。地面は整備されているとは言い難く、不快な振動が座席を伝わってくる。

「ここはね、岩肌から無数の白い手が伸びてくるって噂なんだよ。他にも女の声が聞こえてくるとか、窓に手形がつくとか、いろいろあるみたいなんだ」

友人は饒舌に、猿岩隧道の噂を話し続けた。

約七百メートルの隧道だ。一分も走れば、そこから出てしまう。すぐにUターンして隧道に入るも、やはり何事もなく、元いた場所に戻ってきてしまった。

先ほどと同じように、隧道の入り口に自動車を止めて、どうするか話し合う。少し拍子抜けした三人は、もう一度だけ隧道に入ろうということになった。

その時だ。

友人が突然、「隧道の入り口すぐ横に女性が佇んでいる!」と騒ぎだした。後部座席から懸命に指をさす友人だが、彼以外の誰もその姿を確認することができない。

「そこ! そこにいるじゃん!」

友人によれば、それは長い髪の女で、こちらに背を向けてしゃがんでいるらしい。

「な、お前も見えてるよな?」

友人が彼女に同意を求めるが、首を横に振るばかりだ。

あまりに必死な友人を見て、Kさんは初めて背筋に冷たいものが走ったという。

ただ事ではないと感じ、強引に自動車をUターンさせ、なおも騒ぐ友人を完全に無視して、友人宅に引き返し、二人を降ろすと帰宅したそうだ。

翌日の夜。

ひとりKさんが部屋で本を読んでいると、友人からの電話が鳴った。

出てみると、たしかに友人の声ではあるが、どこか声に緊張感がある。どうしたのかと尋ねるKさんに友人は、あれからどうにも身体が重い気がする、頭痛もするし、体調が優れないのだといった。

『心霊スポットに行ったせいなのかな? 俺だけ幽霊っぽいものを見てるし。Kは特になんともないんだろう?』

早口にまくし立てる友人をどうにか落ち着かせようと言葉をかけるが、『でも』『だって』と反論されるばかりで完全にお手上げだった。

Kさんもさすがに苛立って、黙り込んでしまった。

『あれ? お前……』

友人が訝しげにつぶやいたかと思うと、少しの間沈黙した後、突然怒りだした。

『こんなに不安なのに、電話の後ろでお前の彼女が笑ってるじゃないか! 携帯電話をスピーカーにでもして、二人して俺のことを笑ってるんだろ!』

びっくりしたKさんだったが、逆に怒鳴り返してしまう。

「何を言ってるんだ! 笑い声はお前の方から聞こえてるんだぞ! その声、この前の彼女だろう! そっちこそ、体調良くないとか嘘ついて俺を怖がらせようってつもりだろう!」

『え? 彼女って誰?』

そこで電話が切れた。

「で、あとから友人の両親に聞いたんですけど、当時付き合っている人なんかいなかったそうです。他の友人たちも、あいつに彼女なんかいなかったって言うし。その友人も、あの電話のあとから行方不明で……」

では、あの夜、友人から紹介された女性はいったい誰だったというのだろう?

猿岩隧道に行く前から、Kさんの友人は何かに呼ばれていたのかも知れない。

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