天井からの手(岩手県盛岡市) | コワイハナシ47

天井からの手(岩手県盛岡市)

「場所は盛岡市のどこかってことでお願いできますかね?」

体験者から、絶対に場所は伏せて欲しいと言われている。

三十代の男性Gさんが二十代後半のことだと言うから、今から五〜六年ほど前の話だ。

彼は、新卒から勤務していた運送会社を辞め、とある製造業の会社に就職したそうだ。

前の会社と違って福利厚生もしっかりしている。何より勤務時間が明確だった。

もちろん繁忙期には残業もあるが、ひどく長いものではないし、閑散期は定時で帰れる。

友人が先に勤めていて紹介してくれたこともあり、安心して転職できたという。

この会社は、社宅を持っていて、希望者は空き部屋があれば入居できる。

当時独身だった彼は、社宅の家賃がただ同然のようなものだったということもあって、入居を強く希望した。

その翌日。

総務部から、空き部屋がひとつだけあるので、いつでも引っ越して良いと、連絡が来た。

早速彼が、引っ越しを進めると、元運送業者だけあって滞りなく作業は終わった。

引っ越して、二日目のことだ。

その日、彼は定時で仕事を上がると、寄り道もせず部屋に戻った。

冷蔵庫にある余りものの食材で夕食を適当に済ませ、シャワーを浴びてから、布団を敷いて寝る。いつもの事だった。

しかし、夜中にふと目が覚めた。いつもなら、朝までよほどの事がない限り起きることはないのだが、この時は違ったという。

まず意識だけが起きた。その状態で、部屋に何かいると感じ、ゆっくりと目を開ける。

すると、長短様々な腕が天井から生えていたそうだ。それは、白くて細い。天井と手首のちょうど中間あたりには、肘のような折れ曲がりも確認できる。それらが、ゆらゆらと揺れているのだという。

驚きはしたものの、あまりの光景に「あ、これは夢だな」とそのまま目を閉じて寝てしまった。

三日目の夜。

いつものように寝ていると、また目を覚ましたそうだ。

ゆっくりと目を開けると、昨晩のように腕が何本も天井から生えて揺れている。

昨晩と同じ光景だ。

「あれは夢じゃなかったのか……」

そうつぶやきながら、ある事に気が付いた。

少しずつではあるが、一本の腕が自分に向かって伸びて来ている。このままでは、いつか自分に触れてしまう。

怖くなって逃げようとした時、ビシッという音が全身を走り抜けたかと思うと金縛りになってしまった。

「うわっ!」と悲鳴をあげようとするが、叶わない。動くのは目玉くらいのもので、近寄ってくる白い腕を見つめる他にできることはなかった。

次の瞬間。

その腕が布団に潜り込んだかと思うと、彼の手を握ってきたのだ。それは、ひどく冷たく頼りない感じだったという。この気持ち悪い感触が、今起きていることを現実だと思い知らせる。

そして、その手はどこかへ彼を連れて行こうとしているのか、ぐいぐいと引っ張ってきた。

しかし、彼の体格が良く体重が重かったせいもあってか、逆にその腕が、ぶちぃという嫌な音とともに、天井から千切れ落ちた。

その腕が彼の上に落ちると、激しくのた打ち回り、徐々に動かなくなって、すうっと消えてしまった。それと同時に、他の腕も消えて金縛りも解けていたという。

「なんか、ミミズが苦しんでいるように見えて、ひどく気色悪かったんです」

彼は、苦虫を噛み潰したような顔でそう言う。

「で、それっきり眠れなくなっちゃって。朝イチ、社長に社宅から出させて欲しいってお願いに行きました。総務部を通していたら時間がかかっちゃいますからね」

表情を苦笑いに変えた彼に、その部屋のことを聞いてみた。

「その部屋ですか? 今でもたまに誰かが入居するんです。でも、すぐに引っ越しちゃうんで、たぶん、まだ出てるんじゃないですかね。上の部屋が事故物件? いやいや、三階建ての三階にある部屋なんですよ。すぐ上は屋上です。屋上で何かあったって話は聞かないなぁ」

「ただ……」と、彼は声をひそめて言う。

「うちの会社、製造業じゃないですか。何年かに一度はローラーに腕を挟まれて、腕を失くす人がいるんですよ。もしかすると、その腕の幽霊ですかね。持ち主を探して揺れているのかも知れませんね」

怪談を集めてはいるが、身体の一部が化けて出たという話は初めて聞いた。

彼はその後、会社近くのアパートに引っ越して、今では平和に暮らしているという。

シェアする

フォローする