宝探し(岩手県北上市上野町) | コワイハナシ47

宝探し(岩手県北上市上野町)

これは四十年ほど前の話になる。

北上市に住むJさんは、当時、二十五歳だったそうだ。

一戸建ての家に生まれて二十五年。一人暮らしの経験はなかった。就職先も近所にあって、実家から職場まで歩いていけたからだ。

恋人とも別れたばかりで、当分女性と二人きりになる必要もなし。多少の手伝いはこなしつつ、飯も出て風呂も沸かしてもらえる環境で毎日のんびりと暮らしていた。

そんなある日のことだ。

部屋が散らかってきたことに気が付いたJさんは、掃除をすることにした。不要なものは捨て、いっぱいになったゴミ袋は新しいものと取り替えた。床に置かれたままだった本を拾い集めて、元通りに棚に並べる。並んでいる本もシリーズや巻数がバラバラになっていたので、これを機に並べなおした。さて、本棚を整理してあらかたスッキリしたら、仕上げに掃除機でもかけようか。

──と。

棚から一冊の本を抜き取った時、一枚の白い紙切れが表紙にくっついて一緒に出てきた。手のひら半分ほどもない、二つ折りのメモらしきものだった。

「はて?」と思い、そのメモを広げてみる。なにか忘れないように覚え書きをしておいたのなら見事に忘れている。確認しなければならない。すると、そこには「タンスの裏を見ろ」という字があった。ボールペンで書いたのであろう、紙のへこみやインクのかすれが確認できる。

Jさんは、すぐにそれが何かわかったという。

『宝探しごっこ』だ。

おそらくタンスの裏を見れば、「どこそこを見ろ」と、また別の指示が書いてあるのだろう。それに従って移動していくと、最終的には隠された宝物にたどり着くというわけだ。

ただ奇妙なのは、確かに自分の筆跡であるのに、こんな宝探しを仕掛けた覚えは全くないということだ。Jさんには、メモを書いたことも棚に仕込んだことも、なにかお宝を用意した記憶もなかったのだ。

もちろん、両親のどちらかがメモを書いて、本と本の間に忍ばせた可能性は否定できない。しかし滅多なことでは自分の部屋に両親は入ってこないし、そもそも五十歳を超えたいい大人がすることだろうか? それも息子の筆跡を真似てまで?

そんなことを考えながら、Jさんはこの『宝探しごっこ』に付き合うことにした。今はこのメモが気になる。本棚の整理も掃除機も、日が暮れた後でもできるだろう。もしお宝が外にあるのなら、明るいうちに探した方がいい。

タンスの裏を見てみると、やはりメモのようなものが隠されていた。そこには、『机の引き出しの裏を見ろ』と書いてある。

床に這いつくばりながら机の引き出しを下からのぞくと、引き出しの下面にメモがテープで貼り付けられていた。

テープをはがしメモを広げると、『庭の南部アカマツの根元に埋めた』と書いてある。

「うーん……」

予想通りだ。最後は外に出る。しかしやはり、なにかがおかしかった。庭にものを埋めた記憶がないことに、納得がいかないのだ。酒に酔って記憶を飛ばした間の奇行ということもないだろう。Jさんは生まれつきの下戸である。そもそもここまで手の込んだことを、忘れるわけがない。なにひとつ思い当たることがないというのは、どういうことだ?

とは言え乗りかかった船だ。最後まで付き合うか、とJさんは好奇心が理由で、どんどん重くなる腰を上げて、庭に向かった。

縁側から庭に出ると、そこには一本の南部アカマツがある。父が子供の頃から大切にしている木だそうだ。南部アカマツに近づくと、根本に土を掘り返して埋めたような跡がある。跡があるということは、埋めたのは最近のようだ。

(ここだな)

Jさんは手に持ったシャベルでその跡を掘り起こしていく。すぐにカツンという音がして、何か固い物に突き当たった。シャベルを傍らに置くと、Jさんは手で土をどける。出てきたのは、銀色の四角い缶だった。

蓋には油性マジックで、

『美味しかった』

と書いてある。

なにが美味しかったのだろう、と思いながらJさんは缶の蓋を開けた。

入っていたのは、白骨化した人間の左手だった。

吃驚したJさんは、その場で腰を抜かして動けなくなったが、しばらくして正気に戻ると、缶を元の場所に埋めなおしたそうだ。

『美味しかった』が指していたのは、元の中身と新しい中身のどちらだったのか?

あの宝探しは誰が仕組んだものだったのか?

今でもすべてが謎のままだという。

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