病院(岩手県盛岡市) | コワイハナシ47

病院(岩手県盛岡市)

「岩手の怖い話」も、そろそろ終わりに近づいてきた。

ここまで書いてきて、本当にたくさんの人にお世話になっていると実感する。

そんな中で、特にお世話になっているのが、Iさんだ。

私が、怪談に関わるようになって間もなくからの付き合いになるIさんが体験談を送ってくれたので、ご覧いただきたい。

私は十九年前、盛岡市内のある総合病院で生まれました。

そして生後四日目で心臓の音に雑音がある、その翌日に心臓に穴が開いている可能性が高い、と言われたそうです。

母は無事に出産できてホッとしたのも束の間、産後すぐにそんな話を聞かされて目の前が真っ暗になったそうです。

私が生まれた病院もそれなりに大きな総合病院でしたが、紹介状を書いて頂き、盛岡市のさらに大きな、そして専門的な病院で診察してもらうことになりました。

詳しく診てもらった結果、間違いなく心臓に穴が開いており先天性心疾患「心室中隔欠損症」と診断されました。

一千人に三人の割合で見られるらしく、

・自然閉鎖

・穴が開いたままでも成長に影響がないのであれば、穴とともに生きていく

・心臓が血液循環のポンプの役割を果たせない程に穴が大きく、成長に影響が出るようであれば即手術

という三つの選択肢しかないようです。

両親は新生児の私を連れて二週間に一回病院を訪れ、心臓の穴の様子を診てもらっていましたが、それほど穴の大きさは大きくない、成長には影響がないことが分かり、一カ月に一回、三カ月に一回、半年に一回と徐々に間隔が空いていき、五歳になる頃には一年に一回診察してもらうだけとなりました。

小・中学生の頃は母や父と一緒に来ていましたが、私の家も盛岡市内で病院からそれほど遠くなかったこともあり、高校生になった頃から私一人で通うようになりました。

その日はとにかく待つ、待つ、待つ!

受付をして待つ、呼ばれるのをひたすら待つ、診察時間中も心臓の様子を診るための検査で待つ、終わっても精算のために待つ……。小説を持って行ったり、参考書を持っていったり、色んな時間を潰すための道具を持参していきました。

そして何かに集中していないと、見たくないものも見てしまう、という理由もあります。

心臓とは関係ないとは思うのですが(同じ症状の人に会ったことがないので定かではありませんが)、私は小さい頃から霊が見えるのです。

向こうから人が来るから道を空けたら、友人に

「何? 何かあった?」

と不思議がられ、あ、今のはみんなには見えない人なんだ、と、その時初めて気が付くぐらいハッキリ見えていました。

病院でもあちこちにこの世のものではない人がいて、手元に集中して、なるべくそういう人達を見ないようにしていたのです。

その日も診察を終えて、長い長い精算のための時間を待っていた時です。

ふと顔を上げた時に、また見えてしまったのです。

スーツ姿の男性……でも上半身は血まみれでした。

いつものように見なかったことにして目を逸らした時です。

突然、

「もしかして、あなたも見えてるんですか?」

と、声を掛けられ、振り返ると上品そうなおじいさんが立っていました。

パジャマ姿で、どうやら入院患者のようです。

「お隣に座ってよろしいですか?」

と、私の隣の席に座ってきたおじいさんは、

「今、あれから目を逸らしましたよね? あなたも見えてるんですか?」

と、再度尋ねてきました。

「はい」

と答えると、おじいさんはとても嬉しそうに、でも複雑そうに、

「私も見えるんです」

と、話し始めました。

私は生まれつき見えていた訳ではない。

それどころかつい最近まで幽霊どころか火の玉一つ見たことがなく、そういう存在を胡散臭く思っていた。

ところが、少し前に脳梗塞を起こして病院に運ばれてきてから、突然周囲の霊が見えるようになってしまい戸惑っている。

他の人は霊に気付いている気配はなく、ここで「幽霊だ! ほら、そこ! あそこにも!」などと騒ぎ立てても、脳梗塞が原因で認知症になったと思われかねない。

実際、少し前の自分だったらそう思っていただろうから。

だが、世の中にはこれほど何気なく霊がいたりするのかと驚いている。

これは病院だからなのか?

退院がまだだから外の様子を目にしていないが、病院以外にもごく普通に霊がいたりするのか?

全快して退院したら再び霊が見えなくなるのか?

それともずっとこのままなのか?

など、自分の近況と疑問を一気に私に話してきました。

私は、この病院は、外よりかは少し霊の数が多いと思うが、外にだっているところにはたくさんいる、病気が原因で見えるようになった人が退院した時に見えなくなるかどうかは分からない、と答えました。

おじいさんは「うーん……」とうなっていましたが、とりあえず、自分一人の妄想や幻覚ではないことが分かって安心したと、どこかスッキリした顔で頭を下げてくれました。

その後、おじいさんは「入院生活は暇でね」、とか、「この病院は良い医者が多いけどとにかく待ち時間が長いよね」、など他愛もない世間話がはじまりました。

しばらくすると私の精算の順番が回ってきたため、そのおじいさんとはそこでお別れしました。

病院には亡くなる方も多いため、やはり霊がいます。

訪れる人も多いため、その患者さんの流れの中にさりげなく佇んでいたりするので、あのおじいさんも、それに気が付いてさぞ驚いたことだろうと思います。

私は勇気が出せずに告げることができませんでしたが、あのおじいさんも、そんな霊の一人であることに自分で気付く日が来ることを願いながら病院を後にしました。

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