通話(岩手県 東北自動車道 岩手山サービスエリア) | コワイハナシ47

通話(岩手県 東北自動車道 岩手山サービスエリア)

『岩手の怖い話』の執筆の依頼を受けた少し後に、赤坂田へ行く用事ができた。

新幹線と花輪線を利用することも考えたが、あちらでの移動を考慮し自動車で向かうことにした。

都内から東北自動車道を下り、松尾八幡平ICで降りる。あとは一般道を通るルートだが、この予定だと七時間近くかかってしまう。早朝、赤坂田に到着したかった私は夜のうちに出発した。そして午前三時ごろ、岩手山サービスエリアで休憩をとったのだ。

そこで非常に興味深い出来事に遭遇した。

車から降りて、長時間の運転で凝り固まった身体を伸ばす。

それにしても蒸し暑い。お盆を過ぎたといってもまだ八月である。

真夜中だというのに額に玉のような汗をかいた私は、涼を求めて売店に入った。

自動販売機で冷たいお茶を買い、一息つく。店内のスナックコーナーにはトラックの運転手らしき客と、遅い帰省と思われる家族連れ、一人旅であろう男性客などがいて、深夜だというのに意外とにぎわっていた。

十分休息を取り、そろそろ出発しようと席を立った、そのとき。

「合わせる顔なんてねぇから!」

いきなり大声が聞こえてきた。驚いてそちらに顔を向けると、大柄の男がスマホで誰かと話をしている。歳は三十代くらいか。この暑い時期に黒い革ジャンを羽織っていた。

「大丈夫だって。あいつも会いたいって言ってたし」

先ほどの革ジャンの男から一メートルぐらい離れた所で、これまた体格の良いアロハシャツを着た男性が通話をしている。

「親族みんな来るだろ……。どんな顔して行けばいいんだよ」

「なるようになるから。もう出発しないと、たいやに間に合わない」

「だから、たいやだから気が重いんだって!」

なんだ、この二人は? どうみても会話をしているはずなのに、どうしてスマホ越しなんだ。しかも二人とも全く目を合わせていない。まるで相手がその場にいないかのように話をしている。

私の気のせいではないのだろう。他の客も彼らを好奇の目で見ていた。

「いいか、たいやには必ず出ろ! お前のせいであいつは潰れたんだからな」

アロハの男がそう吐き捨てるかのように大声を出すと、革ジャンの男はまるで話を聞かれたくないかのように、そそくさと店から出ていった。その後をアロハの男が追う。

たいやとは何か、また潰れたとはどういう意味なのか。

少なくとも革ジャンの男のせいで〝あいつ〟と呼ばれている人物が、何がしかの被害にあったことは想像できる。

興味をひかれた私は、少し遅れて彼らについていった。

二人は軽自動車の前で話をしていた。相変わらずスマホを使い、お互いあらぬ方向を向いている。

「それだけじゃない。気が付くとズルズルッて音がするんだ。大きいウニみたいな固まりが、俺を追いかけてきて」

「仕方ねぇだろ! 線路に飛び込んだあいつの頭は──」

「それ以上言うな!」

「……とにかく、久慈まで行け。そこでまた考え直してもいいだろ」

アロハの男に説得されて、男はしぶしぶうなずいている。

「で、お前は今、どこにいるんだよ?」

そういうと、革ジャンの男は運転席に乗り込み、バタンとドアを閉めた。

その直後。

「だから、いつもお前の真後ろにいるって」

ハッとして視線を移すと、アロハの男はいつの間にか後部座席に座っていた。

驚き固まってしまった私は、その男から目を離せずにいた。

それまで仏頂面で一瞥もしなかったアロハの男は、運転席の男を後ろから眺めながら、ニヤニヤと笑っている。

それから軽自動車は発進し、高速道路へと戻っていった。おそらく彼ら、いや彼は久慈を目指しているのだろう。

二人のその後のことはわからないが、後部座席に座ったアロハの男性がこの世のものであることを願うばかりだ。

さて、余談である。

無事に赤坂田へ着いた私は知り合いに、くだんの『たいや』とは何かと質問してみた。おおかた、この地方の方言か風習であろうと考えていたのが、当たっていたようだ。漢字では「逮夜」と書くそうだ。

「岩手は通夜が一回じゃないところが多いんだ。場所によって葬儀の違いはあれけど、通夜の後に同じような弔いをする、それを逮夜って呼んでるらしい。この辺りではしてないけどね。さっき言ってた久慈のほうなら、そういう風習があるのかもしれないなぁ」

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