農村の遠戚(岩手郡軽米町) | コワイハナシ47

農村の遠戚(岩手郡軽米町)

東京都内の喫茶店で、Uさんという三十代の男性から聞いた話だ。

「二年ほど前のことなんですけど、親戚の葬式に行くことになったんです」

彼の遠戚は岩手県にいるそうだ。

「というか、『人たち』ですね。母方の親戚になるのですが、母の従姉妹の嫁ぎ先の……という感じで、実は私も生まれてこの方、会ったことがないのです。母からは、お前が一歳の時に頭を撫でてもらったことがあるとは聞いているのですが……」

これは変な表現かも知れないが、『遠い遠い遠戚』といったところだろうか。

ともかく、その日。

Uさんは、その遠戚で葬式が行われるということをUさんの母から知らされた。

母はもちろん、父も都合があって葬式に顔を出すことができないという。

しかし、Uさんの血筋というのは、なぜか親戚付き合いをやたらと重んじる傾向があるそうで、この時もU家を代表して両親の代わりに葬式に出向いて欲しいと言われたようだ。

「まぁ、交通費も食費も両親が出してくれるって話だったし、会社にも忌引きってことで休めるし。とくに拒否する理由も思い浮かばないから引き受けたんです」

Uさんは、両親から旅費を受け取ると、新幹線で岩手県へ向かった。

盛岡の駅を降りてレンタカーに乗ると、母に教えてもらった住所をカーナビにセットする。

二時間も走ると、目的地である遠戚の家へ到着したそうだ。

「なんていうんですかね、農家だと思うんです。広い田んぼの真ん中に突然、大きな木造の平屋が現れて。で、門の前で車を停めると中から人が出て来ましてね。その人が、私から見て一番近い親戚のAさんでした」

Uさんによれば、今回の葬儀はAさんのお祖父さんのものだそうだ。

「Aさんに誘導されて、これまた広い庭に車を駐車しまして。中に案内されると、参列者が大勢いましてね。それがほとんどA家の親戚なんだと教えられました。ということは、私の親戚でもあるんですよね」

Aさんのお祖父さんというのが、大往生だったせいか、すでに精進落としは宴会のような騒ぎになっていた。

「そこで、本当に見知らぬ親戚たちにけっこうな量の酒を飲まされたりして、その日はそこに泊まることになったんです」

Uさんは、二十畳くらいの客間に通され、そこに布団を敷いてもらい、寝るように言われたそうだ。

「部屋の真ん中に布団が敷かれましてね。いつもは六畳の自分の部屋にベッドで寝てますから、すごい違和感なんです。でも、かなり酔っぱらってたというのもあって、すぐに寝ちゃったんですが、ノドが乾いたのか水が飲みたくなって起きたんです。時間は、午前三時くらいだったと思います」

Uさんが案内されて寝ていた部屋というのは、三方が襖になっていて、おそらくは隣の部屋へと続いているのだろう。

そして、残りの一方というのが縁側に続く上部が障子、下部が磨りガラスとなっている引き戸であった。

さて、水を飲むにはどこへ行けば良いのかと考えていると、その磨りガラス越しに人が歩いていくのが見えた。

Uさんから見て、左から右へ歩いていく。着物を来た女性であろうか。

それは、すぐに右へ消えていった。

次の瞬間。

左から右へ消えたばかりの、女性が歩いてきた。

(あれ?)

と思い、その光景を眺めていると、またその着物の女性は右へ消えていった。

しかし、またすぐに左から出てくる。

それが、しばらくの間続いたというのだ。

酔っぱらっているせいなのか? はたまた、夢でも見ているのか?

その光景に、何か言いようのない得体の知れないものを感じたUさんは、布団をかぶって震えているうちに、また寝てしまったそうだ。

朝。

遠くの方から、自分を呼ぶ声でUさんは起きた。

それはAさんの声で、朝食ができたから食べに来いということだった。

まだ昨日の疲れを残していたUさんは、重い身体を無理に起こすと、声のする方の襖を開けた。

すると、そこにはUさんがいる部屋とそっくりな部屋があった。

(大きな平屋だとは思ったが、同じ大きさの部屋がもうひとつあるのか)

そう思いながら、その部屋に入り、まだ声のする方の襖を開ける。

すると、また同じ部屋がそこにあったそうだ。

そこで、Uさんは変なことに気がついた。

それは、今見ている三つ目の部屋にも、そして自分が寝ていた隣の二つ目の部屋にも、真ん中に布団が敷いてあることだった。

それだけなら、気にすることはない。

しかし、二組の布団が、同じ捲れ方をしている。もっと言うなら、それは自分が使っていた布団と同じ捲れ方なのだ。

「何が起きているかわからなかった。それしか言えないんですけど」

Uさんは、次の襖も、その次の襖も開けたのだが、ただ同じ部屋が出てくるだけだった。

額にじっとりとした汗を感じながらも、また襖を開ける。

すると、すでに開けられた襖が延々と先に続いていて、前も後ろも同じ部屋が続いている。

Uさんは合わせ鏡の世界に引きずり込まれたような錯覚に陥ったそうだ。

「で、しばらく動けなかったんですけどね。途中であることに気が付いて」

その延々と続く同じ風景に、ひとつ変わった部分があることに気が付いた。

それは、何個か先の部屋の角に、黒い塊があったことだ。

小走りに近寄ってみると、それは位牌がいくつも積み上げられた山だった。

異様な光景に固まっていると、Uさんはさらにあることに気が付いた。

自分の位牌が、ひとつ、位牌の山の一番上に横に置かれていた。

それを見たUさんは、「ひっ」と小さい悲鳴を上げると、そこに座り込んでしまった。

次の瞬間。

縁側に続く引き戸が開いて、Aさんが不思議そうな顔でUさんを見ていた。

何度も呼んだが、いつまで経っても来なかったので連れに来たそうだ。

全身の力が抜けたUさんは、朝食を食べる気力も起きなったが、これも礼儀と、かなり長く時間を要して食事を済ませた後、遠戚たちに挨拶をして帰路についたそうだ。

「夜に見た女性もよくわからないですけどね、自分の部屋がコピーされたかのようだったのも、今になってもどういうことだったかわかりません」

Uさんは、次に法事があっても参列を断るつもりだ。

シェアする

フォローする