直線道路(岩手県住田町) | コワイハナシ47

直線道路(岩手県住田町)

陸前高田市で手当たり次第に『何か怖い体験はないですか?』と聞き込みをしていると、住田町でちょっと変わった経験をしたという人に会った。

Tさんは、陸前高田市に住む二十五歳の女性だ。

「たしか、気仙川沿いを走っているときだったと思います」

以前の彼女は、何か嫌なことがあると、深夜のドライブに出掛けるのがストレス解消の手段だった。

当時の彼女は、週末となるとストレス解消にドライブに出かけていた。

平日は、授業とアルバイト。

もちろん友達と遊びに行く日もあったが、それ以上にアルバイトのストレスがひどく、一人きりになりたいとドライブに行くことが多くなっていった。

そんな、ある週末。

その週のアルバイトの内容がTさんにはとても堪えた。日が暮れるなり、車のキーを持って部屋を後にする。

アパートの横にある駐車場に行くと、自分の車に乗り込みエンジンをかけ、目的地も決めずに、気の向くままドライブを始めた。

携帯端末をカーステレオにつなぎ、お気に入りの曲を聴きながら、県道を北上する。

一時間もしないうちに、住田町に入ったそうだ。

県道を通れば、けして多くはないが交通量があるため厳密な意味で一人きりにならないだろうと思ったTさんは、横道に入った。

それは、県道と並走する道路で、両側には田畑が広がっていた。

さきほどとは違い、外灯はまったくない。ヘッドライトだけを頼りに走っていると、前に何かあるのが目に映った。

それは、事故車だった。

おそらくハンドルを切りすぎたのであろう。事故車は、前半分が畑に突っ込むような形で傾き、レッカー車を使わなければ、とても車道に戻れないような状態だった。

その手前。

数メートル手前に、Tさんの車のヘッドライトに照らされて、這いつくばっている女性がいた。

Tさんは事故の被害者だと思い、自分の車を停めて、その女性に駆け寄った。

すると、その女性はすぐに被害者ではないとわかった。

女性は、地面を摩さするように何かを探していた。

「いない、いない」

と、ぶつぶつ独り言を繰り返し、目はきょろきょろと忙せわしなく動いていた。

事故でパニックになってしまったのだろうと、Tさんは声をかけた。

「あの、大丈夫ですか?」

その声に気が付いたのか、女性はTさんに向かって顔を上げた。

「そのあたりに、人が倒れていませんでしたか?」

Tさんの問いが聞こえていなかったのだろうか、逆に女性がTさんに問いかけてきた。

「え……?」

よくよく事情を聞くと、以下のようなことだった。

女性が、この車道を走っていると、突然目の前に人影が飛び出てきた。一瞬のことだったので、男性か女性か、大人か子供かもわからないが、とにかく轢いてしまったことだけは確かだ。直前に急ハンドルを切ったが、間に合わず、その勢いで自分の車は畑に突っ込んでしまった。慌てて車から降りて被害者を探しているのだが、まったく見つからない。月明かりだけしか頼るものがなかったので、這いつくばって探したほうが良いと思って、こうして探していた。

Tさんは、事情が呑み込めた。しかし、見晴らしの良い車道である。

この女性の勘違いということもじゅうぶんに有り得ると思い、警察官を呼ぶ前に、この女性の言うところの被害者を見つけようと思ったそうだ。

女性と一緒に辺りを探してみるが、そのような人影は見当たらない。

少なくとも、自分の車のヘッドライトが照らしている範囲にはいないであろうことは、わかってきた。

Tさんは、自分の車の運転席に戻るとフラッシュライトを取り出して、自分の車の後ろ、つまり自分が走ってきた道を五十メートルほど戻って被害者を探してみた。

しかし、やはりそのような人影は見つからず、女性が犬や猫を人と見間違えた可能性も考えて、小さい影がないか気を配ったそうだが、何も見つからなかった。

「どこにも倒れている人なんていませんでしたよ。何か勘違いされたんじゃないですか?」

と女性がいるところまで戻りながら話していると、そこに女性はいなかった。

(あれ?)

と思い、あたりをフラッシュライトで見渡してみるが、やはり女性の姿はなかった。

仕方がないので、畑に突っ込んでいる車を見に行ってみると、その車の運転席にはエアバックと運転席に挟まれて、頭から血を流して気を失っている女性がいたという。

その女性は、今し方、「いない、いない」と車道に這いつくばっていた女性であった。

(え?)

と思って、女性の肩に手をあてて

「大丈夫ですか、大丈夫ですか!」と声を掛けたのだが、その女性はすでにこと切れていたそうだ。

「あの晩、車道に這いつくばっていたあの女性。今となっては、本当に何かを轢いたかどうかなんてわかりませんが、彼女は何かを轢いたと思い込んで亡くなったから、死んでまで、自分が轢いた何かを探していたんじゃないでしょうか」

疲れた表情でTさんはそう言った。

シェアする

フォローする