呪いの代償(岩手県陸前高田市) | コワイハナシ47

呪いの代償(岩手県陸前高田市)

四十代のFさんが語ってくれたのは、ある呪いに関する話だった。

もう十年も前のことだそうだ。

その年、FさんはIターン転職をした。

その企業は五名の中途採用者を募集していて、そこに応募したFさんは見事採用された。

つまり、他に四名の「同期」がいた。

その中で、Fさんと同じ部署に配属されたKさんは、物腰が柔らかでいつも笑顔を絶やさない穏やかな人だったということもあり、同じ年齢だったFさんとすぐに打ち解けたという。

これが最後の転職になると思ったFさんは、良い職場と同僚に恵まれたものだと、自分の幸運を喜んだ。

しかも、職場は自宅から徒歩圏内で通勤からのストレスからも解放されたと思った。

とは言え、そこは職場である。

嫌なこともあれば、納得のいかないこともある。

そんな時、FさんはKさんを誘って、夜の繁華街へと遊びに行くことにしていた。

お互い独身である。帰りを待つ家族もいない一人暮らし同士なので、翌日が休みともなると安い大衆居酒屋で、朝まで愚痴を言い合う仲だったそうだ。

そんなある日。

Fさんが仕事を終えて、家路を急いでいる時だ。

行く手に、Kさんが立っていた。

それは、二日前に全焼した一軒家の前だった。

Kさんは歩道に立って、その一軒家だった真っ黒い炭の塊を眺めていた。

Fさんが、何をしているのだろうと思い声を掛けようとして近寄ると、Kさんが何かブツブツと呟いていることに気が付いた。

「おい、K」

声を掛けると、一瞬すごく険しい表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、Kさんは片手を上げて挨拶をしてきたそうだ。

こんなところで何をしていたかと問うFさんに、Kさんは曖昧に笑って誤魔化した。

そうされてしまうと、あまり突っ込んで詮索するのも気が引けてしまい、Fさんもそれ以上は何も聞かなかった。

しかし、その翌日。

また、Fさんが仕事を終えて帰っている時だ。

昨晩と同じ、Kさんがあの火事の現場の前に立っていた。

ちょっとこれは普通じゃないなと思ったFさんは、Kさんに声を掛けると、簡単に誤魔化されないように問い詰めた。

すると、苦笑いをしながらKさんは、ことの次第を話し始めた。

「こういう火事の現場、特に死人が出たところって、地縛霊っていうのかな。そういう霊が漂ってるんだよ。死んだことに気が付いてない霊なんだけど、そいつらに俺の嫌いな奴を連れて行ってもらおうと思って、お願いをしてるんだ」

それは、Kさんなりの呪術のように思われた。

「まぁ、ちょっとしたストレス解消みたいなもんだ。忘れてくれ」

そう言うと、Kさんは帰って行った。

ひとり残されたFさんは、全焼した家屋に視線を向けたが、霊感もない彼には何もわからなかった。

ただ、Kさんの言葉を思い出して、背筋に冷たいものが走ったそうだ。

それから一週間後、FさんとKさんの共通の上司が、心不全で亡くなった。

あの晩のKさんの言動と上司の死を結びつけることは、馬鹿馬鹿しいと思ったFさんだったが、その考えは拭いきれなかったという。

そして、上司の葬儀に参列した帰りのことだ。

Fさんは、またしてもKさんがあの焼け落ちた家屋の前に立っているのを見てしまった。

あの日と同じように、思い切って話し掛けてみると、Kさんは困ったような、そして今にも泣きだしそうな顔で振り向いた。

どうしたのかと思い、Kさんが話し始めるのをFさんが待っていると、Kさんが一言。

「人を呪うって、単純なことだと思ったんだけどなぁ……」

暗がりに浮かび上がるKさんの顔は、煤けていた。

いや。

顔のところどころ、襟から露出した首筋、喪服の上着を脱いだ半袖姿から見える腕。

そのすべてが、炭のようになっていたという。

透き間からは、赤黒く燃え尽きようとしている火が明滅している。

Fさんが声も出せずに後ずさると、Kさんは何も言わずにその場を去ってしまったそうだ。

その後、Kさんが出勤してくることは無かった。

しばらくして、自宅から焼死体でKさんが見つかったそうだが、火を使った形跡は無かった。

事件は、心不全として処理されたそうだ。

シェアする

フォローする