かざした左手(岩手県岩泉町) | コワイハナシ47

かざした左手(岩手県岩泉町)

Aさんの息子さんであるT君はとても足が速く、運動会の徒競走でも一位、マラソン大会でも一位と、短距離も長距離も得意。身長は小さいながらも、負けん気が強く、お父さん似のガッシリした筋肉質な体型で、クリクリした目と、毎日外で遊んで真っ黒に日焼けした健康的な男の子だそうだ。

その年、T君の小学校では五月の末に運動会が予定されていたため、ゴールデンウイーク明けから予行練習がはじめられていた。

競技の一つである「選抜リレー」では、各クラス男女三名ずつ、計六名の選手が選ばれてリレーを走るのだが、T君は毎年、当然のように選抜選手になっていた。

しかし、リレーの選手が決まった三年生のゴールデンウイーク前、突然T君の左の首筋にぽっこりとした腫瘍のような、たんこぶのような腫れができたという。

かなり大きく、直径は五センチ、高さは二センチほどのドーム状、色はピンク色。どこかにぶつけた覚えもなく、本当に突然、朝起きたら腫れあがっていたそうだ。

Aさんは心配し、いくつかの小児科を訪れ、最終的には大学病院の小児科へ紹介状を書いてもらって、T君の首筋の腫れを見せに行った。

だが、どこに行っても、

「原因は分からない」

「悪性のものではない」

「時間が経てば治ります」

と、それ以外のことは分からなかったそうだ。

大学病院でも原因が分からず失望していたAさんが診察の会計待ちをしていた時、T君が幼稚園に通っていた頃に知り合ったママ友にばったり会ったそうだ。

子供同士、小学校が別になってしまってからは疎遠になっていたが、会計の待ち時間にうんざりしていたAさんは、暇潰しとばかりに、そのママ友と雑談することにした。

話を聞くと、そのママ友は婦人科系の病気を患っているらしく、ここで定期検診を受けているとのことだった。

ママ友に、Aさんは腫瘍ができてからT君は食欲が落ちて、楽しみにしていた運動会も、もうすぐ開催だというのに練習にも参加できない状態であることを伝えた。

話を聞いたママ友は、

「あんなに走るのが大好きなT君が走れないなんて可哀想! 運動会、出たいよね!」

と、スッと労わる様に自分の左手をT君の腫れの上にかざして、撫でるような動きをした。

Aさんは、ママ友が腫れに触らずに、そのようにした事に少し嫌な気持ちになったそうだ。

翌日。

朝になり、AさんがT君を起こしに行くと、すでに起きたT君がにこにこと嬉しそうにしていたそうだ。

聞くと、Aさんの階段を上ってくる足音で目が覚めた、すると今までの不調が嘘のように良くなっていたので、首筋に手をやると、腫れが無くなっていたという。

食欲も元気も出てきて、更にその翌日から運動会の練習にも参加、無事に運動会本番でも大活躍できたそうだ。

こんなにいきなり治るものなんだ……と、AさんはT君の回復ぶりに安心すると同時に少し拍子抜けしてしまった。

運動会から数日後、Aさんがちょっとした用事で役場に行くと、あのママ友にばったり出くわしたそうだ。

やはり待ち時間に飽き飽きしていたAさんが軽く挨拶をしようと話しかけた時だ。彼女の左手の手首に、T君の首筋にできていた腫れとまったく同じ腫れがあった。

驚いて、

「これ、どうしたの?」「崇りが伝染したの?」「もしかして、治してくれたの?」と、矢継ぎ早に疑問を投げかけたが、ママ友は答えをはぐらかすばかりで、あまり詳しく教えてくれなかったそうだ。

「時々、こういうことができる」

「あの時はT君が本当に可哀想で、私にうつってくれれば……と思った」と。

医者でも看護師でもなく、神社やお寺に住んでいる訳でもない、本当に普通の女性だ。

しかし、彼女の説明のつかない力で、T君は回復したようにしか思えなかったそうだ。

彼女の手首の腫れは、T君のものよりはかなり小さかったらしいが、間違いなく同じ腫れ方、形だったという。

本当に不思議で何が何だか分からないけど、とにかくあのママ友には感謝していると、Aさんは話していた。

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