ラーメン研究会(岩手県盛岡駅前) | コワイハナシ47

ラーメン研究会(岩手県盛岡駅前)

みなさんは、『美味しいラーメン』が食べたいと思った時、どうするだろうか?

ほとんどの人が、「ラーメン店に行く」と答えるのではないだろうか。

「それは半分正解ですね」

と言うのは、大学生のK君だ。

では、残りの半分は何かと問えば、

「専門店に行くことですよ。例えば、醤油ラーメン専門とか、つけ麺専門とか」

彼に言わせれば、多様な味のラーメンを出している店というのは、汎用的なスープを作っているので味がぼんやりとするそうだ。

「醤油には醤油用のスープ、味噌には味噌用のスープをそれ専用に煮出してこそのラーメンですよ」

そう断言するK君は、大学でラーメン同好会という学校非公認のサークルを主宰している。その活動内容というと、授業後に空いている教室に集まっては『どこのラーメンは美味かった』とか『あのラーメン屋は店主が気に食わない』だとか、ラーメン店の情報を交換するようなものだった。

特に、このK君は筋金入りのラーメン好きで、三食ラーメンは当たり前、県外でも美味いとの噂ひとつで自ら足を運んでは、独自に作成したノートに事細かな感想や分析を書き込んで、サークル仲間からも一目置かれるデーターベースを所持していた。

そんなK君がある日、盛岡駅前を歩いていたときのことだ。

ちょうど昼時だというのに、視界に入るラーメン店はどれも一度は訪れたことのある店で、再訪しても良かったのだが、どうもそんな気分になれなかった。

「そうすると選択肢としては、チェーン店ですよね」

たまには、という気持ちで、とあるチェーン店に足を向けたそうだ。

とK君は言うが、取材中によくよく聞くと、わざわざ一駅移動したそうだ。そこまでする情熱がすでに怪談のような気もする。

やってきたのは、ショッピングモールの一角にあるラーメンチェーン店だった。

慣れた感じで食券を買って、席に座ろうとしたがカウンターは満席だった。

昼のこの時間帯、テーブル席は混み方によって相席になる場合がある。せっかくならゆっくりと食事を楽しみたいもの。K君にはそうしたこだわりがあったが、ここまで来て食べないで帰るという選択肢も馬鹿馬鹿しい。

K君は少しだけ躊躇ったが、テーブル席に着いた。

すぐに店員が近づいてきて、テーブルにお冷を置いていく。代わりに、食券を拾い上げると「ラーメン一丁!」と元気の良い声でオーダーを厨房に告げて去って行った。

しばらくして、

「お待たせしました!」と先ほどの店員がラーメンを運んできた。

K君の前には、食券で買ったラーメンが置かれる。

同時に、K君の正面の席に、もう一杯ラーメンが置かれた。

見ると、それは頼んだ覚えのない塩ラーメンであった。

「あの……」

と声をかけて、自分はひとりで来たこと、連れはいないこと、そもそも頼んだ覚えもないことを店員に言って、塩ラーメンを下げてもらった。

店員は最初、

「え? でも……」

と焦ったようだったが、K君の説明を聞くうちに、不思議そうな表情になり、

「あ、あぁ……、そう……、ですよね?」

と狐にでもつままれたような表情で、塩ラーメンとともに厨房に引っ込んでいった。

「なんだったんだ?」

とK君は思ったものの、まぁいいか、とすぐに食事に集中していった。

それからと言うもの、K君がラーメンチェーン店でテーブル席に着く、という条件が揃うと、必ず正面に塩ラーメンが配膳されるようになった。もちろん、そのお店に塩ラーメンがメニューとして存在していない場合は配膳されないそうだ。

毎回、頼んだ覚えがないこと、ひとりで来店していることを説明すると、どの店員も「おかしいな」という表情で厨房に引っ込んでいく。

「青森県でも宮城県でも同じでした」

たしかに不思議なことだが、実害はないし、そもそもチェーン店に行くことなんて月に一度あるかないかだ。

K君は、深刻に考えもせず、日々過ごしていたそうだ。

「確かにラーメンは好きですが、麺類って他にもあるじゃないですか」

K君は、その日、ベトナム料理店に来ていた。

特に意識せずに、ふらっと入ったお店だった。店内にはカウンター席はなく、自然とテーブル席に通される。まわりを見渡すと、食事時にもかかわらず、満席という感じではなく、いくつかのテーブル席に客がいるだけだ。自分と同じようなひとり客も見受けられる。

フォーのランチセットを注文して、しばし待つ。

トレーに乗せられて、K君の前にフォーが置かれる。

さっそくひと口食べてみて、

「塩ラーメンっぽいな」

と、ぼそっとつぶやいたその瞬間。

フォーのスープの水面に小波ひとつ立てずに、そのどんぶりが正面の席にズズズズズッと引き寄せられたそうだ。

もちろん、正面の席に人など座っていなかったという。

「だから、僕には塩ラーメン好きの何かが取り憑いているんですよ」

彼は今でも、ラーメン店巡りを続けている。

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