コテージの訪問者(岩手県八幡平市) | コワイハナシ47

コテージの訪問者(岩手県八幡平市)

埼玉県に住むTさんは、二〇〇三年に職場の仲間たちとキャンプに行くことになった。

「初夏だったと思います。少しだけ暑くて。でも、キャンプ場は少し涼しかったかな」

仲の良い同僚七人で、成功したプロジェクトを祝う意味で打ち上げと称して、二台の自動車でキャンプに出発した。

東北自動車道に乗り、目的地を目指す。

しかし、出発して間もなく、対向車線で大きな事故を見てしまった。

車内では、プロジェクトの思い出話に花を咲かせていたのだが、一気に暗いムードになってしまった。

自動車の進むスピードも事故渋滞に巻き込まれて、人が走っているのとあまり変らない速度まで落ちてしまった。

そのゆっくりしたスピードで対向車線に目を向けると、大破したマイクロバスのような車体をクレーン車が持ち上げている。救急車や警察車両が路肩に並んで停車しており、レスキュー隊員や警官が忙しそうにしている様が見て取れた。

出発直後の盛り上がりはどこへ消えたのか、というくらい誰もしゃべろうともしなかった。

その時、一匹の蝿が、Tさんの乗る自動車のフロントガラスに張り付いた。

事故渋滞を抜けて、時速八十キロになろうかという自動車の空気抵抗を受けてなお張り付く蝿に、車内は意味もなく盛り上がったそうだ。

Tさんたちは、その後、何度かSAやPAで休憩を取り、数時間後には目的地であるキャンプ場にたどり着いていた。

予約していたコテージの横に自動車を停止させると、グループのリーダー格であるMさんがチェックインの手続きに、係員のいる事務所に向かっていった。

残されたTさんが、ふと自分たちが乗ってきた自動車のフロントガラスを見ると、あの蝿がまだ張り付いていて、ちょうど飛び立ってどこかへ行ってしまうところだった。

(変な蝿だな)

と思ったが、Tさんはそれ以上、気にしなかった。

Mさんが手続きを終えて戻ってくると、受付の係員から受け取った鍵でコテージを開けてくれた。

全員で自動車のトランクから荷物を降ろすと、コテージの中に運び入れていった。

荷物を運び、宿泊の準備を整えたTさんたちはコテージの居間で珈琲を入れてくつろいでいた。これからバーベキューをするために、関東からドライブしてきた疲れを少しでも回復しておきたかったからだ。

「あれ?」

仲間のひとりが、一階と二階の間にある採光用の窓を指差した。

全員がそれに釣られて視線を向けると、その窓には汚れた手で触ったような手形が大量についている。

「きもちわるっ!」

そう言いながら、別の仲間が雑巾を持ってきて外から拭いてくれた。

さて、その後外でバーベキューをしようということになり、Tさんが最初にコテージから出ようとした時だ。

ドアを開けた瞬間に、誰かとぶつかった。

尻餅をついて転がるTさんをMさんが手を伸ばして起こしてくれたのだが、Tさんはいったい誰とぶつかったのかわからない。

Tさんのあとに付いて出ようとしていた仲間たちも、何も見なかったそうだ。

バーベキューを終え、酒盛りも終わり、深夜になり全員でコテージで夜を明かした。

朝になって、Tさんたちが二階の寝室から一階の居間に降りると、そこには入れたての珈琲がひとつ。

(はて? 誰か起きてきていたのだろうか?)

あとから起きてきた仲間たちに問うも、誰も心当たりがないという。

Tさんたちは朝食を済ませ、外で朝の空気を楽しんでいた。東京ではなかなかできない体験である。

そして、コテージに戻ろうとした時、先頭でコテージのドアを開けた仲間が、勢いよく後ろに倒れた。ちょうど、コテージから出ようとしたTさんと同じように転んだのだ。

「え? どうしたの?」

と、声をかけるTさんに、仲間は

「誰かにぶつかった……」

と答えるだけだったという。

帰りの自動車の中で、Tさんはふと気が付いた。

最初、コテージに入りたくて窓をベタベタ触った?

ドアを開けて出ようとした時にぶつかったのは、コテージに入ってきたから?

朝、珈琲が入っていたのは居間でくつろいでいたから?

仲間がドアを開けたときにぶつかったのは、コテージから帰ろうとしていたから?

そう考えると、気味が悪くて二度とキャンプに行く気にはなれなかった。

「あれから何度か思い出して考えるんですけど、もしかしたら、あの途中から付いてきた蝿。あれって、途中で見た事故で死んだ人だったのかも。ちょっと飛躍しすぎなんだと思いますが、その考えが頭から離れなくって」

Tさんの職場では、半年後にキャンプに行こうという計画が出ているそうだ。

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