首崎 黒いモヤ(岩手県大船渡市) | コワイハナシ47

首崎 黒いモヤ(岩手県大船渡市)

怪談の蒐集で、とてもお世話になっている人が二人いる。その中の一人、Aさんという人の体験談だ。

私は大学を卒業後にある地方銀行に就職し、岩手県の遠野市にある支店に配属になりました。

実家は二戸市周辺(岩手県の中でも北の方に位置しています)にあり、大学も県外だったため、遠野市周辺にはあまり足を運んだことがありませんでした。

初めて来る地域を見るのが嬉しくて、他の支店に転勤してしまう前にと、週末には遠野市を中心に色々な場所に足を運びました。

ふるさと村や、伝承園、幽玄洞、中尊寺、岩手サファリパーク……、メジャーな観光スポットからマイナーな場所まで、この地域には友達がいなかったので、ほとんどお一人様でしたが、たまに銀行の同僚と一緒に行ったりもしました。

銀行で働き始めて二年目になった時、大型連休で実家に帰省することになり、その前に首崎に行ってみようと思い立ちました。

首崎は岩手県大船渡市と釜石市の間の三陸町にあり、蝦夷のアイヌの酋長(他にもこの地に棲んでいた鬼、という説もあります)が戦いに敗れて処刑され、その首が流れ着いた場所、という少し怖い伝説が伝わっています。

首崎の南には足が流れ着いた場所と言われる脚崎すねざき、首崎の北には死体のその他のパーツが流れ着いた場所と言われる死骨崎という名前の半島もあります。

自殺の名所としても有名で、海を見つめる男性の幽霊や、和装の女性の幽霊などの目撃情報がある他、以前に焼身自殺した男性がおり、その焼け跡がまだ残っている、首崎にある灯台に焼け死んだ男性の手形が現れ、上から何度ペンキを塗り直してもまたその手形が現れる、灯台の裏に回り込むと線香の匂いがする……などの不吉な噂もつきまとっています。

ただ、その崎から眺める日本海は絶景! という話を聞いて、ずっと行ってみたかったので、方向は違うけど、美しい海を眺めてリフレッシュしてから帰省しようと思ったのです。

その話を同僚にしたことを耳にしたらしく、後輩のSちゃんに、私も同行して構わないですか? と聞かれました。

Sちゃんは当時、銀行の仕事に慣れることができず、何度もミスをしては怒られたり注意されたりの毎日で、周囲の先輩達も段々イライラしはじめ、挨拶を無視したり雑談の輪に加われないような空気を出したり、それを感じとってか本来明るく朗らかだったSちゃんは気の毒なくらいに萎縮して、段々と笑顔がなくなり、職場に来るのが本当に辛そうでした。

もしかして自殺の下調べなんじゃ……という考えが頭をよぎりましたが、Sちゃんによると、灯台を見るのが好きなんですが、一人では行きづらかったので、是非……という話でした。

待ち合わせの時間と場所を決めていると、上司のUさんも、行ったことがあるから俺が案内しようか? と、声をかけてくれました。

Uさんは四十代半ば、とても若々しくて爽やかで藤〇直人さん似のイケメンですが、最近離婚したばかりで、離婚理由はUさんの浮気だと噂されていました。

離婚して暇だからですか? という心の声を飲み込み、助かります、と答えました。

連休初日、少し変わった組合わせの三人で待ち合わせ、Uさんの車に乗り合わせて首﨑に向かいました。

五〜六キロあるデコボコと道の悪い林道を走り抜け、途中からは車を降りて徒歩で進みます。

上り坂が続き、最近運動不足だった私には結構厳しい道のりで、Uさんのアドバイス通りスニーカーで来て本当に良かったと思いました。

灯台が見えてきた時にはSちゃんが嬉しそうな声を上げ、それからしばらく歩いてやっと灯台に到着しました!

本当に疲れたけど、首崎灯台から見る景色は噂通りの絶景!

青と緑が入り混じった海の美しさに見とれ、頑張った甲斐があったと心底感動しました。

その後三人でランチをして、私はそのまま実家へと帰省しました。

しかし、久し振りに実家に着くと、祖母が私を見るなり、

「玄関に戻って! 〇〇さん(私の母)! 塩! 塩まいて!」

と叫び、私は玄関でお葬式帰りのように、体に塩をふりかけられました。

その時初めて知ったのですが、祖母は「たまに見えてしまう人」だったらしく、私に変なモヤがかかってた、と言うのです。

実は今日自殺の名所に行ってきた、というと、それでかもね、と言われ……少し気味が悪かったものの、そんなことも長期の休みを満喫するうちに忘れてしまい、連休明けに仕事に行った時のことです。

UさんとSちゃんが来ていないのです。

二人とも体調不良とのことでしたが、次の日もその次の日も来ませんでした。

そして四日目、Sちゃんからうつ病が原因で休職届が出されたことを知りました。

一緒に首崎に行った時は元気そうだったけど、大型連休を挟んでしまうと、どうしても馴染めない職場に来るのは辛かったのかもしれません。

Uさんは原因不明の高熱が続いているそうで、看病してくれる奥様も、もはや離婚して家にはいないため、一人で闘病していたようです。

どこの病院に行っても原因が分からず、ついに入院することになり、検査した結果ウイルス性の髄膜炎、という診断結果がついたそうです。

三週間後、仕事復帰したUさんは別人のように痩せ、若々しさも消え失せて十歳くらい老け込んでしまったかのようで、非常に驚いたのを今でもを覚えています。徐々に元気になっていきましたが。

Sちゃんは約一年後に復帰したそうですが、私はその前に転勤してしまい会わず終いとなりました。

あれから色々考えたのですが、二人がこうなったのは首崎に行ったからなのではと思うのです。

Uさんは離婚直後、Sちゃんは職場でいじめられ、二人とも心に重いものを抱えていました。

そこに何かがつけこんで、心や体に負荷をかけたのでは……と。

私に何も起こらなかったのは、特に悩みを抱えていなかったからなのか……でも、祖母が清めの塩をふりかけてくれなかったら、二人の巻き添え(?)で黒いモヤによって私も体を壊していたのかもしれません。

確証のない話なので何とも言えませんが、私はあれ以来、心が弱っていたり悲しみを抱えている時期(彼氏とお別れしたり、家族が亡くなった時など)は、いわくのある場所には近寄らないようにしています。

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