小さな頃の友達の記憶(兵庫県) | コワイハナシ47

小さな頃の友達の記憶(兵庫県)

「私、小さい頃は友達が一人もいなかったんです。最初に覚えている友達もちょっと変わってて、今思い出すと怖いなって」

幸恵さんの娘、彩さんの最初の友達の記憶は三歳の頃だという。

もう名前は忘れてしまったが、年上の子ばかりだった。その子たちとは数年の間、よく遊んだ。

当時、幸恵さんと幼い彩ちゃんが住んでいたのは、尼崎市内にあるマンションだ。そこは一階の部屋には庭が付いており、幸恵さんが借りた部屋が正にそうだった。

ある日、幸恵さんが部屋の掃除をしていると、彩ちゃんがコップを何個も出してきて、テーブルに並べている。それが終わると今度は冷蔵庫を開け、ジュースを出してテーブルに持って行く。

「彩ちゃん、それどうするの?」

幸恵さんが尋ねると、彩ちゃんは言った。

「お友達が、喉が渇いたって言うから」

テーブルには誰もいない。お友達とは誰の事か聞いても、彩ちゃんは「お友達」としか言わない。誰もいないよと言っても「みんないる」と言って聞かない。

「ママは用事しといて」

そう言ってプイとテーブルに行ってしまった。

幸恵さんは一人でままごと遊びでもするのだろうと、好きなようにさせることにした。

彩ちゃんはしきりにテーブルに向かって何か話しかけている。一人ではかわいそうだと思った幸恵さんは、遊び相手になってあげようと近くに寄った。すると、驚いたことにテーブルに置いてあるコップのジュースがみるみる減っていく。まるでストローを使って誰かが飲んでいるかのようだ。

「それまでは信じてなかったんですけどねえ、あれを見てしまったら、そこに見えない誰かがいるのはホンマのことなんやって思いました。彩が言う友達っているんやって」

ある日の昼間、庭からガン、ガンと大きな音が響いてきた。

幸恵さんは幼い娘のために家庭用の二人乗りブランコを庭に設置していたのだが、それを勢いよく揺らすと、隣に置いてある洗濯機に当たる。その音だった。幸恵さんは庭に向かって彩ちゃんに「止めなさい!」と大きな声で言った。すると室内から彩ちゃんが出てきて「どうしたん?」と聞く。

彩ちゃんじゃない。庭を見ると、誰もいない庭でブランコだけが激しく揺れている。

幸恵さんは彩ちゃんに、「止めるように言って」と頼んだ。

彩ちゃんが庭に出て、誰も乗っていないブランコに話しかけると、ブランコはゆっくりと止まった。

部屋に戻ってきた彩ちゃんが言った。

「お母さん、なんで自分で言わんかったん?」

「だって私には何も見えないんやもん、話しても通じないんじゃない?」

「言ったらちゃんと聞こえるよー!」

そう言って彩ちゃんは笑った。

そんな風に、彩ちゃんは見えない友達とよく遊んだ。いや、彩ちゃんにとってはきちんと見えている友達だった。

友達はみんな子供だったが、年齢はばらばらだ。小学生ぐらいの子もいれば、幼稚園ぐらいの子もいる。普通の服の子、浴衣を着た子、体に薄い布を巻いただけの子、顔が見えない子、顔のない子。

「一番仲が良かったのは、ぱっつんにした芸能人みたいな髪型の女の子でした」

ぱっつんとは前髪をまっすぐに切り揃えることだ。最近、芸能人でそういう髪型をする人が出てきて、それで人気になりつつあるようだが、昔風の言い方をするならばおかっぱ頭ということになるだろうか。

いつもみんなが集まると、二組に分かれて庭で遊ぶ。ブランコで遊ぶ組と砂遊びをする組だ。組分けはその日によって違うのだが、大体そのぱっつんの子とは一緒だった。

ある日、お母さんが買い物に行って留守の時、ぱっつんの子が一人で遊びに来た。

いつものようにブランコに乗ったり、砂遊びをしたりしていたのだが、そのうち、その子がこんなことを言った。

「浮いてみる?」

彩ちゃんはあまり深く考えずに、「うん、浮いてみたい」と答えた。

女の子は嬉しそうにうなずくと、彩ちゃんの手を取った。すると体が宙に浮いたという。

「二、三十センチぐらいやったんですけど。それぐらいの高さに浮いて、その子と一緒に手をつないで歩きました。なんかトランポリンで飛んでる時みたいな、なんかフワフワした変な感じがしました」

二人して庭でそうやって中空を散歩していたのだが、突然その友達が言った。

「お母さんが帰ってくる!」

「なんで分かるの?」

「もうそこまで来てるから。今日はこれで終わり」

友達は彩ちゃんの体をゆっくり地面に降ろすと、慌てて帰っていったという。

彩ちゃんは急いで家の中に入り、テレビを点けた。お母さんが帰ってきたのはその直後だ。彩ちゃんはずっとテレビを見ていた振りをしてごまかした。いけないことをしていたように思えたからだ。

その頃から徐々に、一部の友達はいたずらをするようになっていった。例えば、家の中に入ってきて、水道を出しっぱなしにする。お母さんがそれについて彩ちゃんを咎とがめると、喜ぶのだ。彩ちゃんが水道を止めて、そこを離れると、また水を出しっぱなしにする。そうしてまた彩ちゃんが叱られるのを見て面白がる。

そのことについて彩ちゃんが友達に文句を言うと、逆に友達は機嫌を損ねることもあった。そうなるともう手が付けられない。電気を点けたり消したりする、テレビの画面を砂嵐にする、ひどい時にはトイレに閉じ込められたり、家から閉め出されたこともあった。

他に覚えていることとしてはこんなことがあったという。

「今でもすごくよく覚えてるのは、お風呂場の鏡を見たら、自分以外にもいっぱい見たことのない子がいて、でも後ろ見ても誰もいなくて、鏡の中にだけいるんです。それで手を伸ばして鏡に触ったら、手が鏡の中に入ったんで、怖くなって止めたことがありました」

ある日のこと、また一番仲良しのぱっつんの女の子が遊びに来た。

その日、お母さんは出かけていて留守だった。

いつものようにしばらく庭で遊んでいると、ぱっつんの子が言った。

「私の家に連れて行ってあげようか」

行ってみたくなった彩ちゃんは、その子と一緒に家を出て、導かれるままに歩いて行った。今まで通ったことのない道だったが、どこまでもまっすぐについて行く。漸く着いたところは、知らない墓場だった。その中を友達はどんどん奥へと入っていき、ある墓の前で止まった。

「ここが私のおうち。はいろ」

そう言われた瞬間、彩ちゃんは初めてその女の子がもう既に死んでいるのだと理解した。彩ちゃん自身、それを理解する年齢になっていたのだ。

彩ちゃんはその友達に「今日は止めとく」とだけ言って、家に帰った。初めて来た場所だったが、一本道だったので、迷うことなく帰ることが出来た。

それがその友達との最後になった。

「そのことをお母さんに言ったら、もう危ないからその子たちと遊んだらだめって、おうちに連れてこないでって言われました」

彩さんがそう言うと母である幸恵さんが当時を振り返って言った。

「普通の子やったらいいけど、死んだ子と付き合うのはちょっとね」

「でもそう言われても、その子らも普通に見えてたから、誰が死んでて誰が生きてるのか分からんかったし。だから私、その後は友達作らんかった」

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