母の憂鬱(兵庫県) | コワイハナシ47

母の憂鬱(兵庫県)

「この家にもね、少なくても三人はいるんですよ。階段の三段目と、台所の入り口、それにお風呂場。で一番よく出てくるのが階段の男の子」

先日のことである。

永森さんのお母さんは一階の和室を寝室として使っている。その夜、階段を下りてくる足音に目が覚めた。階段は和室を出てすぐ左側にある。そこをギシギシと言わせながら誰かが下りてくるのだ。二階には息子が寝ているので、水でも飲みに降りてきたのだろうと思った。

ところが階段を下りた後、音が全くしない。何をしているのかと、布団から出て見に行ってみると、そこには誰もいなかったという。

これも最近のことである。

お母さんが、和室で襖を半分だけ開けて寝ていた時のこと。

襖がカタカタと音を立てた。

地震だと思った。

急いで電気を点けようとするが、点かない。

テレビを点けた。部屋を明るくするためと、地震速報を確認するためだ。

しかし速報も何も流れない。まだ襖はカタカタと震えている。

懐中電灯を取りに炊事場へと行った。そこで振動は止んだ。結局何だったのかは分からなかった。

「この家にはいるからな、そういう人が。特に階段の男の子はみんな見てるんで、その足音も振動もその男の子やろうね」

と言うお母さん。目には見えなくともそう感じるらしい。

その男の子は着物姿なのだという。家族や親戚が来て、賑やかになると、階段を下りてきて、そっと部屋を覗くのだ。家族全員その姿を一度は見ているのだが、なぜかこの家に住んでいるお母さんだけはまだ見たことがない。

厄介なモノもいるらしい。二階にいるという赤い着物の女だ。この女は普段は鳴りを潜めているが、この家に妊婦が来て二階に上がると、階段の上から背中を押すのだという。これまで二人が被害に遭っている。その一人が郁恵さんである。妊娠中にたまたま実家に帰ってきて、二階に上がった際に後ろから勢いよく押されたのだ。彼女の場合、何とか手摺に捕まって事なきを得たが、もう一人の被害者である親戚の伯母さんの場合は階段から転がり落ちてしまった。幸いにも赤ちゃんは無事に生まれたそうだ。

彩さんもこの家の二階には何かを感じるらしい。

「私も二階の女の人は怖い。一階にいても、なんか二階から呼ばれてるような気がして。二階にちっちゃい廊下があるんやけど、そこからすっごい呼ばれる。で行ってみたら誰もいないし、でもなんかぞわぞわする。何にもないのに見られてる気がするねん。ちょっとした隙間とかが気になって仕方がない」

その時のことを思い出したのか、少し顔を顰しかめながら彩さんは言った。

「なんかすっごい気持ち悪い、この家」

「あ、そ、ありがと」

と苦笑いしながら答えるお母さん。

だが家族からの実家バッシングは止まない。

「なんでこんな家にしたん?」

そう言ったのは幸恵さんだ。

「そんなん震災でみんな家壊れてるし、引っ越しする人も多いから、他に買う家なんかなかったんやんか」

お母さんは、阪神・淡路大震災で自宅が全壊し、それで仕方なく転居先としてこの中古住宅を購入したのだった。

「私、出産で入院してて、退院したら実家はここになりましたって。生まれたばっかりの彩を抱いて、最初この家に入るのめっちゃ嫌やったわ」

「あんたはタイミングが悪かったな」

「いや、関係ないやろ」

「みんなそんなこと言うて、来るのを嫌がる。娘も孫もあんまり来てくれへんし」

お母さんのボヤキを郁恵さんが遮さえぎった。

「もう嫌やねん、この家に来んの、気持ち悪いから」

「もうちょっと綺麗にするから」

「してもいっしょや」

何やら会話が家庭内の揉め事めいてきたところで、お母さんが諦めたように呟いた。

「だいたいみんな気持ち悪がるな。だからこの子もこの子もこの子も孫たちも、みんなこの家は気持ち悪いからイヤやって言うし、誰も遊びに来てくれへん。

世間の人たちなんか信用すらしてくれへんし。

昔は私も先のことが分かりましてね、なんか知らんけど分かるんですわ。この人は病気になるとか、この人は仕事で失敗するとか、そういうことが分かるから、先に教えといたろと思って言いますでしょ。そしたらみんな、そんな気持ち悪いこと言うな!って怒りますねん。兄にも言われましたから。それで私はそういうことは言わんと決めて、そしたらそんな力も無くなりましたわ。

みんな嫌がるし、信用もしてもらわれへんからね、せやから(だから)こういう話はでけへん(できない)」

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