一庫ダムの話(兵庫県) | コワイハナシ47

一庫ダムの話(兵庫県)

「その日は連れと三人で、まあその連れの内の一人が車を新しいのに買い替えるから、もう最後になるし、その車でドライブしようと、そういう話になったんですね」

時期は四月頃、まだ肌寒い時期である。出掛けたのは夜。

自宅のある尼崎から車を走らせて、川西を抜け、一庫ダムに向かった。

現地に着いたのは午後八時半くらい。一庫ダムの駐車場に車を止めて、自販機で缶コーヒーを買って飲んだ。

連れの二人は缶コーヒーを早々に飲み干し、そろそろ行こうかなどと話している。しかし白岩さんはまだコーヒーが半分ほど残っていた。タバコも吸っている。

「これ吸い終わるまでちょっと待ってくれ」

そう言ったのだが、二人はさっさと車に戻ってしまった。

そんな二人は待たせておくことにして、白岩さんは一人で悠ゆう々ゆうとタバコを吸っていた。

するといきなり車が動き出した。車は白岩さんの見ている前で、駐車場の出口へと向かっていく。

「またくだらん冗談しやがって」

どうせ少し行ってからドアを開けて「お前何やってんねん」などと言ってくるに違いない。そう高を括っていた白岩さんだったが、意に反して車はそのまま駐車場から道路に出るとぐんぐんスピードを上げて走り去ってしまった。

白岩さんは完全に取り残された形になった。

「どういうこっちゃ、ほんまに」

そう毒づくが、どうしようもない。彼はコーヒー片手にその辺を散歩しながら車が戻ってくるのを待つことにした。

ところが、十五分経っても二十分経っても戻ってくる様子はない。何だか負けたようで癪ではあるが、体も冷えてきたので、彼は携帯電話を取り出して電話してみることにした。

運転していない方の友人にかける。すると、相手は電話に出るなり言った。

「お前どうしてん!後ろ見たら乗ってなかったから、びっくりして今こっちから電話しようとしてたとこや!」

「いやいや、何言うてんねん。俺ずっとさっきの駐車場で待ってるんやぞ!」

友人は、今から戻るからと慌てた調子で言うと電話を切った。

しばらくして車は戻ってきた。

白岩さんは後部ドアを開けて中に乗り込んだ。

「めっちゃ寒かったぞオイ!」

「すまんすまん、でもな」

お前さっき、車乗ったやろ、と運転している友人が言う。

彼らが言うには、二人が車の前の席に乗り込んだ直後、後ろのドアが開いて誰かが乗り込み、ドアが閉まったのを耳で聞いたというのだ。振り返って確認はしていないのだが、確かに音と車の振動が実感としてあったのだという。だからてっきり白岩さんが乗ったものだと思って走り出したのだそうだ。

しばらく走っていると、後ろから別の車が猛スピードで近付いてきた。

ちょうど最初のトンネルに差し掛かる辺りだった。そのトンネルは狭いので、端に寄ることは出来ない。そこで次のトンネルまで走り続けた。二つ目のトンネルに入り、端に寄せようと思ったら、後ろの車が消えている。おかしいと思って振り返ると、後部座席に白岩さんの姿が無い。

どこかで振り落としたのかと慌てて電話を掛けようとしたら、白岩さんの方から電話が来たということだった。

「そんなもん、振り落とされるか!って怒ったんですけどね。その時は車の中ではほんまに振り落としたと思ったらしく、ちょっとした騒ぎになったらしいんですけど」

白岩さんが言うには、自分は近くに見える人がいると、その人に引っ張られて普通は見えないものが見えるようになるのだそうだ。そんな質だからか、彼はいろいろな体験をされており、そういう話が尽きることはない。

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