得体の知れない塊(兵庫県神戸市) | コワイハナシ47

得体の知れない塊(兵庫県神戸市)

「神戸から車で帰るのに、いつも国道四十三号線を使うんですよ。その日もね、神戸で用事を済ませて、友達の運転する車で帰ってたんですよ。ちょうど芦屋の辺りかなあ。友達とどうでもいい話をしてたんですが」

国道四十三号線は大阪市西成区から神戸市へと続く一般国道である。尼崎に住む白岩さんはよく利用していた。

それはちょうど芦屋を抜けた辺りだった。

「ううぅぅぅうぁあああああ!」

思わず白岩さんはこれまで出したことのないような声で叫んでしまった。信じられないほどの強烈な悪寒が背筋を走ったのだ。

「お前どっから声出してんねん」

隣で運転している友人の谷口さんが呆れたように言う。

「今何かおった(いた)やろ?何がおったん?」

白岩さんは谷口さんに聞いた。谷口さんは白岩さんの周りにいる見えないものが見える人の一人であり、一緒にいると彼に引きずられて白岩さんも感じやすくなってしまうのだという。

だが、谷口さんの答えはそっけないものだった。何もいないと言うのだ。

白岩さんはそんなはずはないと思ったが、これは谷口さんが自分を怖がらせまいとして、あえてとぼけているのだと考えた。ならまあいい、もう少ししたら教えてくれるだろう。

案の定、しばらくして谷口さんは口を開いた。

「さっきな、凄いのがおったで」

怒り、苦しみ、妬ねたみ、嫉そねみ、悲しみなど、ありとあらゆる負の感情が凝り固まった、言うならば思念体ともいうべきものだった。それが車にぶち当たり、その一部が車体にこびりついたのだ。それを白岩さんは感じてしまったという訳である。幸いにも今はもうほとんど残っていないから大丈夫だと谷口さんは言った。

その夜はそれで終わったのだが、翌日、困ったことが起きた。

その話を白岩さんは職場で同僚に話した。その際、聞かれたくない面倒くさい人にも聞かれてしまったのだ。横井さんという人で、この人は何にでも首を突っ込みたがる、関西弁で言うところの「一いっ丁ちょ噛かみ」である。

「それ面白そうやなあ。今日、仕事終わったらそこ行こうや」

もちろん白岩さんは即座に断った。だがこの横井さんという人は、一度言い出したら他人の言うことなど決して聞かない石頭だ。止むを得ず、白岩さんはその日の夜に、横井さんとあの場所へ行くことにした。

今度は昨夜とは逆方向からだ。白岩さんは尼崎から芦屋の方に向かって車を走らせた。

例のあの場所が徐々に近付いてくる。またあの悪寒に襲われるのかと思うと白岩さんは自然と身構えてしまう。そしてあの場所を通過した。何も起きない。

良かった、どこかに消えてくれたのだ。白岩さんはほっと胸を撫でおろした。

と、思ったのも束の間、そこから五十メートルほど進んだところで、あの悪寒がまた全身を駆け巡った。

「横井さん、ほらまたおったやん、俺、頭痛くなってきたわ」

白岩さんがそう言うと横井さんも

「ほんまやなあ。俺もちょっと頭痛くなってきたわ」

「いや絶対ウソやろ!と。それのどこが頭痛い顔やねん!俺が言うたから言うてるだけやないか!と、そう思いながらも仕方ないんで、こっちはもうフラフラなんでね、とりあえず運転変わってもらって、そこで四十三号線から抜けて、他の道から帰ることにしたんですよ]

白岩さんは結局二日続けて人生最大の悪寒を体験することになってしまった訳であるが、その悪寒がとにかく凄かったそうで、本人曰く「何が起こったんかとひっくり返るくらいビックリした」のだそうだ。

その悪寒の原因である負の感情の塊であるが、谷口さんによれば、四十三号線を這うようにして少しずつ移動していたらしい。現在ではもう既にそこには無く、消えて無くなったのか、そうでなければ、今でもどこかをゆっくりと這い続けているのだろうということだった。

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