人殺し!(大阪府八尾市) | コワイハナシ47

人殺し!(大阪府八尾市)

「僕、大阪の八尾のね、町工場でね、昔、働いてたんですよ。結構、長時間の勤務やったんですけど、朝八時から晩の九時ぐらいの勤務でね、家に帰り着くのは遅かったですね、いつも」

その日も大崎さんが会社を出たのは午後九時半頃だった。

工場から八尾駅までは自転車だ。いつもの何もない寂しい一本道を自転車で走っていく。

ふと前を見ると、中年の女性が自転車で走っている。この時間にこの道で他の人を見るのは珍しい。大崎さんは特にその女性を追い抜くこともせず、後についていく形で自転車を走らせた。

するといきなり前を行く女性が自転車の速度を上げた。

「ああ、ひょっとしたら後ろからついて来られるのが嫌やったんかなあと思ったんですけど、まあ一本道やし仕方ないと、そのまま駅まで走らせたんです」

大崎さんが駅の駐輪場に着いた時には、前を走っていた女性の姿は既になかった。

ところが、彼が駐輪場に自転車を預け、駅へ向かおうと歩き出した時、突然後ろから、前を走っていたあの中年の女性が現れた。女性は物凄い剣幕で大崎さんに詰め寄り大声で言った。

「人殺し!人殺し!」

これには大崎さんも面めん食くららってしまったが、まともに相手になっては却って厄介なことになる。そう判断し、その女性を無視してその場から離れることにした。彼がその女に背を向けて歩き出すと、女は追い掛けてこそ来なかったが、後ろからは何度も「人殺し!」と叫ぶ声が聞こえてきた。大崎さんは振り返ることなく、足早にその場を立ち去った。

駅へと向かう大崎さんだったが、その前にコンビニに寄っていくことにした。

店に入り、商品を見ていると、「人殺し!」という声が後ろから聞こえてきた。振り向くとまたあの女だ。女は大崎さんを指さして、大きな声で「この人、人殺しや、人殺しや!」と騒ぎ出した。

「僕、もうほんまにびっくりしてしまって、あんまりしつこいもんやから、『いい加減にしてくださいよ』と、『警察呼びますよ』って言ったんですけども、ずうっと後ろを付いてくるんですよ」

大崎さんは一切そちらを見ないようにして、駅へと急いだ。

少し行くと、後ろからの声が聞こえなくなった。振り返ると誰もいない。

先ほどからそうなのだが、この女はしつこく後ろからついてくると思ったら、急に姿が見えなくなる。そして全く予期しないところへ突然現れる。一体どうなっているのか全く分からないが、また現れるのではないかと思うと気が気ではない。

彼は周囲に気を付けながら改札を潜り、電車に乗り込んだ。

漸く解放されたとほっとして座席に座ると、「人殺し!」というあの声がまた聞こえてきた。いつの間にか正面に、彼を見下ろすようにして、あの女が立っている。

「この人、人殺しや、人殺しや!」

またそう大声で喚わめき散らし始めた。

心底怖くなってしまった大崎さんは、これは何とかしなくてはと思い、その女に負けないくらいの勢いで「もうほんまにいい加減にせんと怒るで!」と怒ど鳴なった。

すると、女は逃げるようにどこかへ消えてしまった。

大崎さんはほっとした。これでもうあの女も戻っては来ないだろうと。

やがて降りる駅が近付いてきた。大崎さんは座席から立ち上がると、扉の方へと移動した。

電車が駅のホームに入り、徐々に減速、そして定位置で止まり、扉が開いた。そこにあの女がいた。女は大崎さんの姿を認めるとまた大声で「人殺し!」と喚き始めた。

大崎さんは怖くなってその場から逃げ出した。後ろから「人殺し!人殺し!」と繰り返す声が聞こえる。彼はホームを走り、改札を抜け、肩で息をしながら駐輪場に入った。鍵を開けて自分の自転車を自転車スタンドから引っぱり出すと、それを押して駐輪場から小走りに出た。そこにまたあの女がいた。

「人殺し!この人、人殺しや!」

ヒステリックに叫ぶ声が夜の街に響く。半ばパニックになって大崎さんは自転車に飛び乗り、むちゃくちゃに走って自宅に逃げ帰ったのだった。

「それでもう現れなくなったんですけどね、その時の心理状況っていったら、『この人、一体何者なんやろう』っていうね、ほんまに怖くて、最初の方はね、ひょっとしたら刺されるんじゃないかとか、或いは痴漢の冤えん罪ざいってあるじゃないですか。女の方がね、面白半分に何もしてない人を犯罪者に仕立て上げるとかね、そういう風になるんじゃないかとかね、そう思ってたら、今度は駅に着いたらそこにおるとか、あの時は気付きませんでしたけど、あれはあり得んでしょ。家に着いてからもその辺から出てくるんじゃないかと思ったら、もう気が休まりませんよ」

話し終えると大崎さんはまた怪獣くじ引きの戦いの場へと戻って行った。

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