そんな「かわうそ」などいない!(長野県) | コワイハナシ47

そんな「かわうそ」などいない!(長野県)

木村さんが小学生の頃、長野の山裾にある祖父母の家を訪れたときの話だ。

昼間、散歩に野良道を歩いていると、一匹の猫が畑を横切っていた。

淡いクリーム色の体毛に、先の黒い尻尾を揺らしたシャム猫に見えた。

猫好きの木村さんは、「チッチッ」と舌を鳴らし、猫の注意を引こうとした。

すると猫は、振り向きざまに後ろ足ですっくと立ちあがる。

その顔は真っ平らで凹凸がなく、墨で〈すっ、すっ〉と線を引いたような、非常に簡単な目鼻立ちをしていたのだという。

そのくせ、獣の分際で野太い眉毛をつけていた。

そして『なんだぁ?』と、怪訝そうな表情でこちらを見詰め返したのである。

〈……あれは猫じゃないな〉

木村さんはそう思い、家に帰って祖母にその奇妙な生き物について聞いてみた。

「ここらでは猫なんか見ないし、何かしらねぇ」

祖母も、よくわからない様子だったという。

田舎から帰って、数ヵ月が過ぎた頃だ。

休日、父に連れられて入ったラーメン屋で、カウンターに置いてあった漫画雑誌を何気なく読んだ。すると、巻末の描かれた四コマ漫画に、あのとき畑で見掛けた生き物とそっくりな顔のキャラクターを見つけた。

それは「かわうそ」という生き物らしかった。

とぼけた表情の、何とも滑稽味のある生き物である。

彼女は〈そうか……あのとき私が見たのは、「かわうそ」だったんだ〉と納得して、最近になるまでそう信じていたらしい。

勿論、そんな珍妙な「かわうそなどいないっ!」のである。

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