連打するお婆さん(東京都) | コワイハナシ47

連打するお婆さん(東京都)

都内に住む鈴原さんは、夜間に居酒屋でバイトをしている。

ある日、いつものように夜遅く自宅の最寄り駅に戻ったときのことだ。

疲れた足で改札を抜けると、女性が自動発券機に立っているのが目に入った。

白いブラウスにつば広の帽子を目深にした、上品そうなお婆さんに見えた。

彼女は自動発券機の使い方がわからないのか、画面を何度も突いている。

係の人を呼ぼうかとも思ったが、腕時計を覗くと終電まであまり時間がない。

しょうがないなと、鈴原さんはお婆さんが切符を買うのを手助けすることにした。

「普段なら、そんなことはしないんですけどね。そのときは、何度も液晶を突いているお婆さんが可哀想に思えてしまって」

鈴原さんは「よかったら、手伝いましょうか?」と声を掛けてみた。

だが、返事はなかった。

見ると、お婆さんはこちらを一瞥もせず、ひたすらに画面を突き続けている。

帽子のつばから覗く瞳は虚ろで、口元からぶつぶつと呟き声が漏れていた。

〈あっ、これはちょっと違うかな……放っておくか〉

鈴原さんは迂闊に声を掛けたことを後悔し、その場を後にしたという。

その後、あのお婆さんの姿を頻繁に見掛けるようになった。

何がしたいのかはわからないが、彼女は毎回、発券機をひたすら指で突いていた。

〈身寄りがないのだろうか〉と憐れんだが、それ以上のことはしなかった。

そして、ある晩。

久しぶりに友人宅で飲んで、夜半に最寄り駅を下りた。

ほろ酔い気分で改札を抜けたが、その直後、友人から電話で「お前、家の鍵置いてったろ?」と教えられた。今更に引き返すのも面倒だったが、このままでは家に入ることができない。仕方なく鈴原さんは、踵を返して改札に戻ったという。

そのときも、あのお婆さんの姿を見掛けた。

ただ、どうしたことか、いつもよりも画面を突く速度が増しているように見えた。

「昔、ファミコンの名人っていたじゃないですか。あれみたいに、凄い速さで画面を連打していたんですよ……そう考えたら、可笑おかしくなって」

苦笑を浮かべながら電車に乗り、友人宅の最寄り駅の改札を潜くぐった。

──発券機の前に、あのお婆さんがいた。

やはり発券機の液晶画面を、執拗に連打していた。

しかし、先ほど乗り直した駅と、いま降りた駅とでは五駅も離れている。

どう考えても、先回りなど出来るはずがなかった。

唖然としていると、お婆さんの指の速度が異常に速くなり、液晶に穴が開きそうな勢いになっていく。

気味が悪くなった鈴原さんは、慌てて友人宅へ逃げたのだという。

「後になって気づいたんですけど……あの婆さん、一生懸命に画面を突いている割には、タッチパネルがまったく反応していなかったんですよ」

それ以降、鈴原さんは電車での移動をなるべく控え、自転車を使うことにしている。

駅の先々であのお婆さんが先回りしてくる気がして、電車に乗るのが嫌になったからである。

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