スニーカー(神奈川県) | コワイハナシ47

スニーカー(神奈川県)

智則くんは小学二年のとき、地方から神奈川の海岸沿いの町に引っ越した。

多くの友達と離れることになり、彼自身は不本意な引っ越しだったのだという。

そんな蟠りもあったせいか、越して間もないある日、母親と口論して家を飛び出してしまったそうだ。

しかし、行くあてなどなく、たまたま見つけた神社で時間を潰すことにした。

神社は長く登った階段の先にあり、頂上に立派な御社を構えていた。

興味を持った智則くんは、拝殿を探検し、小枝で蟻や地虫を弄って遊んだ。

だが、そのうちに時間も過ぎ、次第に周囲が暗くなってくる。

夕闇に沈んだ境内は気味が悪かったが、さりとて家に帰る訳にもいかなかった。

仕方なく彼は、階段の途中にある踊り場に下りて、更に時間を潰すことにした。

そこには外灯が灯っており、幾分心細さが和らいだのである。

ふと、視線を巡らせると、手摺りにスニーカーがぶら下がっているのに気づいた。

半足だけが、金属の細い手摺りに靴で括られていたのである。

敢えて手に取る気はしなかったが、手持無沙汰なこともあり、何気なくスニーカーに小石を放ってみた。

すると小石はスニーカーの履き口にはまり、カラカラと小さな音を立てた。

それが面白くて、次々と小石を放り入れた。

やがてスニーカーは満杯となり、終いにバランスを崩して一気に吐き出した。

その様が、まるで鹿威しのようで小気味が良かった。

調子に乗ってそれを何度か繰り返していると──背筋が〈ぞくり〉とした。

振り向くと、階段のすぐ下に数人の大人が立っていた。

まったく見覚えのない中年の男女だが、黙ったまま無表情にこちらを見詰めている。

智則くんは驚きつつも、「すみません」と小声で謝って道をあけた。

すると、中年の男女はそのまま彼の前を素通りし、一列に並んで階段を昇り始めたのだという。

〈……変な人たちだな〉

日没後にひとりで遊んでいる子供に注意もせず、黙って立ち去ろうとする大人たちを、智則くんは訝しく思いながらも見送ったという。

「ドサッ!」

次の瞬間、手摺りから何かが落ちる音がした。

見ると、さっきまで手摺りにぶら下がっていたスニーカーがなくなっていた。

〈落ちちゃったかな?〉と、階段を覗き込むが、何も見当たらない。

すると階段の上手から、「パタタタタタタッ」と足音が聞えた。

──見上げると、半足だけのスニーカーが階段を駆け昇っていた。

ただし、それを履いている人の姿は見えない。

智則くんは、それが暗闇に溶けて消えるまで、呆然と見詰め続けていたという。

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