足下からの煙(新潟県) | コワイハナシ47

足下からの煙(新潟県)

随分前に亡くなった私の祖父が、まだ若かった頃の話だ。

祖父は一時期、新津市の役場に勤めていたことがある。

そこでは施設の警備のため、交代で職員が宿直を行う決まりとなっていた。

ある晩のこと。

祖父が宿直をしていると、事前の知らせもなく数人の若い衆が役場を訪れたそうだ。

聞くと、つい先刻、村はずれの古い旅館で火事があったのだという。

すでに一応の鎮火はみたが、宿泊客がひとり、煙に巻かれて亡くなったらしい。

「で、悪いんだが、この人、一晩だけ面倒見てやってくれねえか」

彼らはそう言うと、戸板に載せられた浴衣着の男性を土間に降ろした。

思いの外に綺麗な御遺体で、祖父は嫌とも言えずに渋々承諾したそうだ。

だが、若い衆が立ち去ってしまうと、祖父は我慢できずに酒瓶を開けることにした。

見張り役を引き受けてはみたものの、すぐに気味が悪くなってきたのである。

手酌で冷酒をちびりとやりながら、ちらちらと遺体に目を遣やった。

そのときだ──

ふと、土間に横たわる遺体の足元が、濛々と煙っていることに気がついた。

〈んっ、何だ?……〉

瞠目する祖父の目の前で、その煙がどんどんと濃度を増していく。

煙は遺体の爪先から立ち昇っていた。

やがて、煙が輪郭を描き──亡くなっている男性と同じ姿になったのだという。

その煙で形作られた男性は、酷く苦悶に歪んだ表情をしていた。

「……お前さん、どうしなすったね?」

男性を哀れんだ祖父は、思わずそう声を掛けた。

すると、男性は我に返った表情を浮かべ、申し訳なさげに〈しゅるしゅる〉と爪先へ吸い込まれていったのだという。

その後、祖父は急いで遺体を茣ご蓙ざで覆い、麻縄で幾重にも縛ったそうだ。

〈また、化けて出られたら堪らない〉と、考えたのである。

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