Oさんは広島県の出身だ。中学の頃は自転車通学をしていたそうだ。
ある日、黄昏の山の中。いつもの砂利道を自転車で下っていると、コンと後頭部に小石が当たった。
「いってえ!」
と思わず声を出して振り返ったが、誰もいない。
それでまたOさんは自転車を漕こぎだした。
コン、とまた小石が当たった。
また振り返るがやはり誰もいない。
なんだかおかしい。自分は自転車に乗っている。その後頭部に二度も小石をぶつけるには、すぐ後ろに誰かがいて、石を投げているはずだ。なのに、後ろにはまったく人気がないのだ。
(ははあ、こら、狸か狐の仕業やな)
とOさんは思った。
(それやったら無視したろ……)
Oさんはまた自転車にまたがると、ペダルに力を入れた。
するとまた小石が当たった。
(こら、完全に馬鹿にされてる)
そう思ったOさんは「こら狸!お前は人の頭に石投げるんしか能ないんか!そんなことぐらいではびっくりせんぞ」と大声を張り上げた。
あたりはしーんと静まり返っている。
Oさんはまた自転車のペダルに足を乗せて、おそるおそる砂利道を進みだす。振り返ったが今度は何も起こらない。
フッと安心感が湧いた。と、前を見た瞬間、Oさんはあわててブレーキをかけた。
停止した自転車の一メートルほど先から四、五メートル先までの砂利がない。そこだけを綺麗に箒で掃いたかのように、堅くなった土が露出している。
(ここにあった砂利が、全部わし目がけて飛んできたらかなわん!)
そう思って引き返そうと後ろを向くと、そこには砂利の小山ができていたという。