私が小学生の頃、クラスメートがこんな体験をしたらしい。
武庫川の河川敷のグラウンドでドッジボールをしていたという。
そのうち夕方になった。
誰かがポーンとドッジボールを山なりに投げると、そのボールがガチッと空中で止まった。
本来ならば弧を描いて落ちてこなければならない。それが静止したまま、ビクともしないのだ。
だんだんと夕日が六甲山へと沈んでいく。もう帰らなければならない。
「どうしよう」と、みんなは顔を見合わせた。
なぜ、空中にボールが静止しているのか、という不思議よりも、早く落ちてこい、という気持ちだった。ともかく河川敷のグラウンドなので、みんなは河原から石を拾ってきては、ボールめがけて投げた。
ところがボールは、ビンビンとその石を跳ね返す。
するとひとりの子が、割れた物干竿を拾ってきた。
その子は竿でボールをコンコンとたたいたり、つついてみたりするが、竹竿がしなるだけでやはりそれは空中に静止したまま動かない。
とうとう六甲山の山陰に日が降りてしまった。
「もう帰ろうや」
「そや、明日なんとかしよう」
と、みんなが一斉にボールに背を向けて帰ろうとした途端、ターン、タンタンタンとボールが落ちて弾む音がする。
あっと振り返ると、グラウンドに跳ねるドッジボールがあった。