思い込みの激しい男(東京都) | コワイハナシ47

思い込みの激しい男(東京都)

人が生きていく上で、思い込みって、意外と重要だったりするんですよね。

「成功できる」と思い込めば、なんだって成功できるし、逆に、

「こんなの不可能だ」

と思えば、それ以上先に進むことはできなかったりする。

一八九一年、ドイツではじめて有人飛行を成功させたオットー・リリエンタールは、

「人は、空を飛べるはずだ!」

と真剣に思い込んでいた。

だから、大空にはばたくことが、できたのでしょう。

近代スポーツの世界でも、思い込みがけっこう重要視されていたりしますよね。イメージトレーニングなんかも、その一種。

「いまの自分は最高だ!絶対にうまくいく!」

そう思い込むことで、いつでもベストな結果を出せるよう、訓練するんだそうです。

それから、興味深いところでは〝想像妊娠〟なんてのもありますよね。思い込みだけで、子供を生んでしまうという、あれです。僕も話でしか聞いたことないんですが、本当にあったら、たしかにすごいですよね。

とても不謹慎な話ですが、イエス・キリストを生んだ聖母マリアなんかも、じつは〝想像妊娠〟だったりするかもしれない。なにしろ、聖母マリアは処女なのに、キリストを馬小屋で生んでいるんですからね。

言い換えれば、人間は思い込みだけでなんでもできる。

ただ、それも度が過ぎると、とんでもないことになりかねない……。

ある食品メーカーの社長Pさんが、まだ食品管理部の部長だった頃、部下に、やたらと思い込みのはげしいQという男がいたそうです。

女子社員が笑っていれば、自分のことだと思い込む。

リストラが噂されれば、自分のことだと思い込む。

被害妄想が強いんだかなんだか知らないけど、とにかく、すぐに自分のことだと思い込むらしいんです。

ある時、その食品メーカーに強盗が押し入った。

ちょうど、明日、開かれる食品メーカーのコンベンションの用意で、数人の男性社員が深夜遅くまで残業していた。そこを、狙われたらしいんですね。

で、Qはどうしたかというと、ひとり、逃げ出した。一目散に、会社の食品倉庫に逃げ込んだらしいんですよ。同僚をみんな見捨てて、ピュ――――ッとね。

だけど、運悪く、強盗にそれを見つかった。強盗は食品倉庫まで、Qを追ってくる。

手には、ナイフのようなものが握られていました。

(こ、殺される)

そう思って、Qは無我夢中で走った。心臓がバクバクと高鳴っている。息も切れ切れになって、もつれるようにして倉庫の奥にある、業務用の冷凍庫の中に逃げ込んだんです。

そして、内側からガチャリと鍵をかけました。

ドカッ!ドカッ!

扉をはげしく蹴る音が聞こえてきます。

「出てこい、このやろう!」

Qは扉の取っ手をつかんだまま、ブルブルと震えていました。

「ぶっ殺すぞ」

相手はヤクザなのか、ものすごい迫力です。

この扉を開けたら、最後。自分は殺されてしまうに違いない。あのナイフで、殺されるに決まってる。

Qは扉を絶対にあけようとはしなかった。

そのうち、扉の外で、別の男の会話が聞こえてきました。

「もういい。そいつはほっとけ」

「で、でも……」

「急がないと警察が来る!時間がないんだよ!」

犯人は、どうやらひとりじゃないらしい。

Qが扉に耳をそばだてていると、

「そこのコンテナを扉につけて、出られないようしとけ!」

リーダー格の強盗が、そう怒鳴るのが聞こえてくる。

続いて、

ズリッ……、ズリッ……

なにか重いものを引きずる音。

バコーン!

と音がして、冷凍庫の扉がひどく震える。

「これで出らねえだろ」

「ふん、自業自得だ」

強盗たちは口々にそう言うと、出ていったのか声がしなくなりました。

足音が完全に消えてしまうと、男は、外の様子を見るために扉をあけようと、手に力を入れました。

だが……、

ガツンッ!

扉は、なにか頑丈なものに押し付けられて、開かない。

さらに、体当たりをくらわしてみるが、やっぱりダメ。

男の顔から、見る見る血の気が失せていく。

(こ、この冷凍庫に閉じ込められてしまった!)

そう気づいた時には、もう手遅れ。

男は必死に扉を叩いて、助けを呼んだそうです。

「誰か~、凍え死んじまうぅ!はやくここから出してくれぇぇ!」

翌朝、食品メーカーの倉庫周辺は、警察車両でいっぱいでした。

強盗はひとり残らず捕まったそうです。警報ベルを聞きつけた警察が、すばやく駆けつけてくれたおかげで。

犠牲者は、冷凍庫の中に閉じ込められたQひとりだけだったそうです。

検死の結果は、凍死。

足の指は紫色に変色し、細胞が壊死していたというんです。助けを求めて一晩中、扉を殴り続けたらしく、手のひらは完全にやぶけて血がにじみ、白い骨まで飛び出していた。扉の表面にも、びっしりと、肉の破片がこびりついていたそうです。

警察は現場検証もそこそこに、早々と捜査を切りあげた。

事件は解決したように見えました。

だが、当時、男の上司だったPさんは、どうしても納得いかない。

「凍死のはずがない」

今でもそう言い張っているんです。

なぜかって?

男が閉じ込められていたその冷凍庫、電気ケーブルの故障のために、二ヵ月前から使用されていなかったというんですよ。

「三日後に業者が修理にくるはずだった」

そう言って、机の引き出しから、その当時の修理依頼書まで見せてくれた。

「あれは絶対、凍死なんかじゃない!」

そう言い張るんです。

警察にも同じことを言ったそうですが、結局、信じてもらえなかったそうです。

では、Yはなぜ凍死してしまったのか。

まさか……。

いまとなっては、真実を突き止めることはできませんがね。

シェアする

フォローする