芸妓さん(静岡県伊豆市) | コワイハナシ47

芸妓さん(静岡県伊豆市)

以前、演歌歌手のマネージャーをしていたSさんが、ある興行で伊豆へ行った。

夜中、スタッフたちと麻雀をしていると、障子越しに誰かがスッと横切るのが見えた。そこは廊下になっているので、誰かがそこを通り過ぎても不思議はない、と最初は思っていた。しばらくすると、またスッと人影が横切った。

その様子、容姿は、同じ人のように思える。髪を丸髷に結った細身の女。

ちょっと気になったが、かまわず麻雀を続けた。

そのうち誰かがトイレに行った。その人がトイレから帰った時、障子を閉めたつもりが少し開いていたのだろう。はっと気づくと、また女の影が廊下に現れ、その隙間から女が見えた。女はこちらを見て、軽く会釈をして通り過ぎた。

芸妓のように見えた。えらく美人だ。

「おい、この旅館、芸妓がいるぜ」と、Sさんが麻雀牌パイを並べながらボソッと仲間に言った。

「こんな旅館にか?今夜の客は俺たちだけのハズだぜ」

「お前さんの見たのは伊豆の踊り子の幽霊だよ」と誰かが茶化した。

と、しばらくしてまた、障子にその影が映った。それを見たSさんの表情でみんなが気づいた。その目が障子に集まる。丸髷に結った髪の和服の女。障子の隙間からこちらを見て、軽く会釈して奥へと消えた。

「芸妓だ」とみんなは納得した。

だが、その時はじめてあれはおかしい、とSさんは思ったのである。

そこは廊下だから人が通ること自体は不思議ではない。しかし、さっきからあの女は、何度も何度も奥へ向かって消えているが、奥からやってくるところは一度も見ていない。しかも時計を見ると夜中の二時を過ぎている。

「おい、そこの廊下の奥って、何があったっけ」

「奥には何もねえよ。すぐそこ、壁になってるから」

その時、みんなはゾッとしたのである。

翌朝、そのことを旅館の女将に言うと「へえーっ、めったに出ないんですけどもね。あんたたち、芸能関係の人だったから、あの子も嬉うれしかったんでしょうね」と、ごく当たり前のように言われたのだという。

別の部屋で寝ていたスタッフたちは、どこからするのか、美しい三味線の音を朝まで聞いていたという。

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