学生寮の住人(大阪府富田林市) | コワイハナシ47

学生寮の住人(大阪府富田林市)

取材のきっかけはT君という大学の後輩から編集部宛に届いた電子メールだった。

学生寮の住人その一

夏のことである。

昼間、遊びに来ていた友だちと話していると、正面の友だちの顔色が突然変わる。

「おい、今、そこ、人が通った」とT君の背後の窓を指さす。

「そんなことあるか。ここ二階やぞ」と振り返るが、空しか見えない。

「でもほんまに通ったんや。女や。白い服着てた」

「アホ。きっと洗濯物や」と言ってT君が席を立つと、また、

「おい、また通った!絶対やっ!」

「そんなことないって」とT君はまったく相手にしなかった。

事実この部屋の住人たるT君は、そんな人を一度も見たことがなかったからだ。

そんなことが何度かあった。

半年ほどして別の友だちが遊びに来た時「お前の寮とちゃうか」と『新耳袋』を持ってきた。

読んでいて、第九話ではっと手が止まった。

〝Kという学生寮の二階の窓の外を人影が通る〟

(ここに書いてあることと一緒や)

それから怖くなったそうだ。

我々が卒業後二十年を経た今も、継続中だったとは……。

学生寮の住人その二

T君がこの寮に引っ越した当時のことを話してくれた。

階段を上がろうとすると、ドアが開いている部屋がある。

当然部屋の中には先輩がいるものだと思って、(新入りやから丁寧に挨拶しとかな)と近寄ると、中からにゅっと細い手が出てきてドアノブを握り、バタンと大きな音をたててドアを閉めた。

(何や、女の人が来てるんかいな)と階段を上りかけると、タタタタタッと階段をかけ降りてきた人が、先ほどの部屋に入ろうと鍵かぎを出している。

「あの、先に誰か来てますよ」と言うと「いや、誰も来とらんぞ」。

「でも、部屋のドア、中から誰か閉めました」

すると「何言うてんねん、ちゃんと鍵かけていってるに」と、カチャと鍵を開けて部屋へ入った。

その後も夏休みなどで帰省したり留守にしていて鍵がかかっているはずの部屋のドアがなぜか開いていて、(あれ?)と近寄ろうとするとバタンと閉まることがよくあった。

ある時こんなこともあった。その先輩の部屋でたむろしていると、外から「うわっ」と言う声がして「先輩、先輩」とバタバタ廊下を走る音がしてドアをしきりに叩たたく。

「誰や」と開けると隣の住人。

蒼そう白はくな顔。

「あの、僕の部屋に壁から髪の長い女が入ってきて、先輩の方の壁に抜けたんですけど……」

「ほんまか、それ!」と先輩は振り返ったが、T君は(何もありません)と首を横にふるだけだった。

その女は、空中三十センチほどの所を歩いていったという。

学生寮の住人その三

T君が隣の友人の部屋にいた時だった。もう一方の隣の住人が入って来て、

「きのうの夜、女連れて来てたやろ」と言う。

「いや」と友人。

「いや、別にかまへんねんけど、もっと静かにしてもらわれへんか?寝よう思ったら、笑い声がもううるそうて」と言う。

しかし友人には、何の覚えもない。また薄い壁のこと、それが本当ならT君の部屋でも聞こえたはずだ。

そこへたまたま廊下を通りかかった別の住人が言った。

「ひょっとして女の笑い声ちゅうのは、上からしてへんかったか?」

「そういえば天井近くでした」

「それやったら、この寮の女ちゃうんか……」

しかしそんなことはまったく信じないくだんの住人は、「これからは気いつけてくださいね」と帰って行った。

そういえば、二階の窓を横切ったという女も、高い所だ。先輩の隣の住人も女が三十センチの高さを歩いたと言っていた。

この寮には女がいる。そう思うようになってからは、ここで女性を見かけるのが怖くなりました、とT君は語った。

K寮は男子寮なのだ。

学生寮の住人その四

別の寮の話。

T君が、ある学生の部屋を訪ねたら、昼間なのに電灯をつけている。中に入って見ると、部屋の窓という窓に新聞紙が貼りつけてある。

「何、この新聞紙?」と尋ねると、

「新聞紙貼ったら安心やねん。カーテンはあかん」と言う。

理由を聞いても話してくれない。

ただ「このおまじないはきくんや」と寮の先輩から聞いたそうだ。

T君は、その理由は『新耳袋』第一夜第十話と同じだろうと思った。

その寮が太子四辻という交差点を曲がった道沿いにあったからだ。

そんな人を、T君はふたりほど知っていた。

シェアする

フォローする