虫の知らせ(神奈川県) | コワイハナシ47

虫の知らせ(神奈川県)

神奈川県 K・M 男 35歳 設計士

私の家系には霊能者と呼ばれる人がいます。叔母さんがそれです。

叔母さんはお金をもらってお祓はらいとかしている人ではなく普通の専業主婦をやっています。叔父さんも普通の会社員です。しかし、親戚や近所の人の間では有名な霊感の持ち主だったので、私が小さいころから、叔母さんが他人に頼まれてお祓いやお清めなんかをやってるのを見てきました。

叔母さんは「何か体が重くなったり気分が悪くなったりしたら、それは悪いモノが取り憑いているって事だから、『南無妙法蓮華経』って心を込めて唱えるんだよ」と、小さいころの私に教えてくれました。私自身は霊感なんて持っていませんでしたが、ずっと叔母さんの行うお祓いなんかを見てきていたので幽霊の存在は信じていました。

そして、その日は不意にやって来ました。

私の勤めている職場は電車で2駅先にあります。その2駅の区間は結構短くて歩いて三十分も掛かりません。ですので、時々私は電車で帰らず歩いて帰ったりしていました。その日も、気分が何となく「歩いて帰りたいモード」だったので、電車には乗らず、のんびりと歩いて帰路についていました。

1駅分を歩き、もう1駅分を歩いている時です。

そこは緩やかな下り坂になっていて、その下り坂を抜けると閑静な住宅地に出ます。

その住宅地を抜けると自分の住んでいる街の駅前に出るのですが、その下り坂の終わりぐらいの所に猫の死骸があったのです。

私は叔母さんの影響で、あまり死骸という物を怖いと思いません。ただ可哀想と思ってしまいます。その時も、死骸の気持ち悪さより、哀れさの方を強く思ってしまい、その猫の死骸を道の横に移動させて『南無妙法蓮華経』と口の中で唱えました。

自分なりの供養が終わったので再び帰り道を行こうとすると、後ろに強い気配が感じられます。私は恐る恐る振り向くと今来た坂道の上に猫がちょこんと座ってこちらをじーっと見つめていました。

私は即座に「今供養した猫だな」と感じました。猫が成仏する前にお礼をしに来たんだな、と好意的に受け止めてから帰り道を行こうとすると、足が前に進みません。厳密に言うと、足が重いのです。

「あれ? おかしいな」

私はそれでも前に進もうとすると、今度は身体全体が重くなってきました。ずっしりとした感触です。

「うあ、なんだ!?」

私の周りには誰もいません。明らかに私一人しかいないのに、誰かに掴まれているのです。

次第に身体にノシ掛かってくる感触が鮮明になってきます。私の胸と腰に「誰か」の両腕と両足が巻きついているのです。だんだんと強く締め付けられるようになり、自分の顔の横にも生暖かい感触が感じられるようになりました。私は「誰か」をおぶっているのです。

身体中が締め付けられる感覚に陥り、耳元でかすかに「……はぁ……はぁ」という音がします。

私は、「声を聞いたらいけない!」と直感でそう思うと、必死に前に進もうと足を動かしながら、「南無妙法蓮華経」「南無妙法蓮華経」と唱え続けました。その間も、「誰か」は強く締め付けてきます。そして、両足が重くて前に動かせません。

私は本当に必死の思いで「南無妙法蓮華経」を唱えると、不思議な事に次第に身体が軽くなってきました。なおも必死に唱え続けると、身体の重さは無くなりました。

そして猛ダッシュで住宅街を抜け自宅に戻りました。自宅には、何故か叔母さんがいました。

「K君、三人連れて来ちゃってるね」

叔母さんはそう言うと、私を座らせお祓いを始めました。

お祓いを受けていると、身体が無意識に感じていた得体の知れない不快感が解消されていくのを感じました。

叔母さんが力強く何かを唱え終わると穏やかな表情になり、「K君、終わったよ」と言いました。

「なんだったの?」と私が聞くと、「K君が優しそうだったから、成仏出来ない霊達が何とかしてもらおうとまとわりついてたんだよ」と叔母さんが説明してくれました。

私は何でそうなるのか良く分かりませんでしたが、念のため猫の事も聞いてみました。

それで、叔母さん言うには、事故にあった猫の死骸を供養してやった私の姿を見て、霊が取り憑いて来たのだと説明してくれました。坂の上から猫が見ていたのは、ただ感謝していただけだから気にしなくて良いという事でした。

「もし、あのままその三人に取り憑かれた状態だったらどうなってたの?」

私は聞きました。

「道連れにされてただろうね」

叔母さんはあっさりと答えました。ちなみに、私に取り憑いていた三人は、私の右足に一人。左足に一人。そして背中におんぶするような形で一人だったそうです。

叔母さんは、自分の親族に何か有ると胸騒ぎがするそうで、今回も嫌な予感を感じたので私の自宅に来て待機していたのだそうです。

「来るならあの坂道まで助けに来てよ」

と冗談っぽく言うと、いくら叔母さんでもそこまで細かくは感じる事が出来ないという事でした。

なにはともあれ、助かって良かったです。

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