団地で見かける女(和歌山県) | コワイハナシ47

団地で見かける女(和歌山県)

和歌山県 A・N 男 21歳 大学生

私がこの街に引っ越してきたのは約三年前です。

現在通っている大学の近くに住もうと思ってこの地にやって来て、そしてこの団地に住むことにしました。外観も設備も何の変哲も無い団地です。家賃は安からず高からずの平均的な価格だったので、いわく因縁の有る物件という考えは全く起きませんでした。

そんな平凡な団地で、私が奇妙な人物を見かけるようになったのは、この団地に引っ越してきて一ヶ月にも満たない間でした。

大学での授業を終えた後の帰宅途中、私は、団地のベランダに立ってこちら側(つまり道路側)を見ている一人の女の人を見かけました。その女の人の立っている部屋は団地の七階か八階付近で、私の住んでいる部屋とはかなり離れてしました。ちなみに、私の住んでいる部屋は三階です。

その女の人はベランダで洗濯物を干すわけでもなく、ただ黙ってジーッと道路を眺めていました。私はなんとなくイヤな感じだったので、自転車を漕ぐスピードを早めてさっさとその場から立ち去りました。

部屋に着いた私は、「あの女の人もこの団地に住んでる人なんだよなー」と考えていました。もし偶然、ゴミ捨て場とかであったらどうしよう? と、さらにどうでもよい事を考えたりもしたものの、別にお互いすれ違っただけのような感じだったので、「神経質に考えすぎだな」と考えを改めて気にしない事にしました。

次の日の朝、大学に行くために玄関を開けると、ゴミを出しに行く団地の住人と会いました。その人とは通学時間によく会う人で、時々は軽い会話をするような関係でした。

私はいつも通り「おはようございます」と挨拶すると、その人は不思議な事に挨拶を返さず見開いた目で私の顔をジーッと見つめて来ました。

「……なんですか?」

私はジッと見つめられることに不快感を感じたので、ちょっとだけ不機嫌な感じで言いました。

「いや……君、なんか人相変わったね。ちょっと雰囲気もおかしいよ」

と、いきなり失礼な事を言われたので私は腹が立ちました。

「なに言ってんですか!? 僕は何も変わりませんよ。朝っぱらから変な事言わないで下さい」

私はそう言うと、さっさと大学に向かいました。

大学では私の人相がうんぬんと言う人は一人もいませんでした。「朝からなんて不愉快なんだ」と、私は多少イライラしながらその日の大学生活を終えました。

大学での帰路、私はなんか気になって、昨日の女の人がいた場所らへんに目を向けました。誰もいませんでした。

気にしすぎていた自分を少し恥ずかしく思うと、私は気を取り直して自宅に帰りました。

団地の入口に到着すると、自転車置き場に自転車を置いてエレベーターに乗り込みました。

自分の部屋のある三階に着いたので、部屋に行こうとエレベーターを降りて廊下に出た途端、廊下の突き当たりに昨日の女の人が立っていました。しかも、微動だにせずにこちらを見ています。

私は心臓が口から出そうになるくらいビックリしてしまい、思わず「わー!」と声を上げてしまいました。かなり大声で驚いてしまったにも関わらず、その女の人は瞬きすらせずにこちらを見ています。

私は、その醸し出す雰囲気の異様さに不安を感じたので、一旦、部屋には入らずにしばらく時間を潰そうとエレバーターに引き返しました。しかしエレベーターの扉は閉まってしまい一階に降りて行ってしまっていたので、一刻も早くこの場から立ち去りたかった私は階段を使う事にしました。

女の人が立っている方を一切向かずに、階段を駆け足で降りると、自転車に乗りとりあえず大学の方へと漕ぎ出しました。

私は自転車を漕ぎながらあの女の人の事を考えていました。あの挙動不審な行動や読みづらい表情を考えると、あの女の人はちょっとした精神異常者なのではないか? と思いました。

「あんなのに付きまとわれたんじゃたまったもんじゃない!」

私の正直な感想はそれでした。

自転車を漕ぎながら「早く帰りたいなー。でも、まだあそこに居そうだしなー」という、拭いきれない不安を感じたまま悶々と過ごしていると、辺りはすっかり暗くなっていました。

暗闇の中であの女の人にあったら余計に怖いと思い、私は意を決して帰る事にしました。

もし何かおかしな行動をとられたら警察を呼んでやる! という強い決意のもと、再度、自宅に戻ったのです。

団地に到着し、恐る恐る三階に行って辺りを見ると、誰もいませんでした。私は今のスキに部屋に入らねばと思い、猛ダッシュで玄関の鍵を開け部屋に飛び込みました。部屋に入ると、すぐ鍵を掛けてチェーンもします。

私はようやく安心すると、テレビを点けてくつろぎだしました。部屋の中でゴロゴロしていると、不意に「バキッ!」という木の割けるような大きい音がしました。

「え? なに?」

音はお隣さんの部屋から漏れてくるのではなく、自分の部屋の中から聞こえてきました。

ドン。ドン。

ベランダの窓を叩く音、明らかに人が叩いている音が聞こえます。

窓には遮光カーテンを掛けているので、カーテンを開けない限りその向こうで何が起きているのか分かりません。

まさか……?

私はイヤな予感はしましたが、決着をつけるべく勇気を振り絞ってカーテンを開けました。

案の定、ベランダにはあの女の人が立っていました。

「あなたではなかった」

窓越しに、口を一切動かさず、無表情で目を見開いたままその女の人は言いました。

そして、そう言うと女の人はパッと消えてしまいました。

私は、今、自分の目の前で起こった事が信じられませんでした。

それ以来、私がその女の人を見る事はありません。

あの人は誰を探していたのでしょうか?

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