徘徊するおじいちゃん(山形県) | コワイハナシ47

徘徊するおじいちゃん(山形県)

山形県 S・E 男 27歳 会社員

私の実家は山形の山間部にあります。

ようするに田舎町なのですが、私自身は、やはり生まれ育った所という事もあって、その田舎の風景や空気がたまらなく好きです。仕事は関東の方なので普段は関東住みですが、仕事が長期連休に入ると必ず帰省するようにしています。

これから話す体験談は、この帰省中に体験した話です。

私は実家に帰省すると必ず会う友人がいます。仮にハセガワとしておきましょう。

このハセガワは、生まれも育ちも自分と同じ町で、通っていた学校も一緒だった、いわゆる腐れ縁の友人です。高校卒業して就職する時、私が地元を離れたのに対してハセガワは地元に残り続けていました。それでも私達の縁は途切れず、電話で連絡を取り合いながら今でも友達付き合いは続いています。

私の勤めている会社がゴールデンウィークの長期連休に突入した際、私は例年通り実家に帰省しました。そして、実家に到着するなり、すぐにハセガワに帰省した事を電話で伝えると「今から会おう」という事になりました。まだ夕暮れ時になるかならないかぐらいの時間でした。

行きつけのファミレスでハセガワと会うと、あーでもないこーでもないと他愛のない話を織り交ぜつつお互いの近況を報告しあいました。

お互いの近況報告と言っても、しょっちゅう電話で話しているのでほとんど目新しい話題はありません。そんな中、自分たちの住んでる所の隣の市に新しいラーメン屋が出来て美味いらしいという話をハセガワがしてきました。

「そんなに美味いのなら食いに行くしかあるまい!」

と、二人で決めて、そのラーメン屋に行く事になりました。

私達は、会えばいつもこんな感じのノリで、あっちに行ったりこっちに行ったりして気ままにブラブラと遊ぶのが基本になっていました。今回のラーメン屋行きも、ただブラッとどっかに行きたいという気分のためだけの目的地に設定しただけの事で、大して深い考えがあったわけではありませんでした。

私はハセガワの運転する車に乗り込み、いざ、隣の市のラーメン屋に向かいました。車中では、車を運転するハセガワと雑談をして過ごします。ちなみにハセガワの車にはカーナビは付いていません。元から行き慣れた知っている道だけを走っているので、「そんなもの要らない」という事でした。

私達はなんとなくカーナビの話をしていたら、ハセガワが「だったら、ちょっと通った事ない道を通って○○市まで行ってみようか?」と言い出しました。私はそれは面白いと思い、「そうしよう」と言いました。

その言葉を受けて、ハセガワは、しばらくは普通の大通りを走っていたのですが、途中から住宅街のある小道に入っていきました。

小道なので入り組んでいます。

曲がり角の先が一方通行の道だったり、行き止まりだったりでいつもと勝手が違います。私達はその状況を楽しんでいました。

車中でワイワイ言いながら車を進めていると、フロントガラスにポツポツと雨粒が落ちだし、次第に本格的な雨に変わっていきました。

「うわー。雨降ってきちゃったよ」

私が言うと、

「早くこの住宅街を抜けないと、ラーメン屋閉まるな」

と、ハセガワが答えました。

私達はふざけるのを一時中断して、本気でこの住宅街を抜ける事を考えました。そして、もと来た道を引き返せば大通りに出るから、大通りに引き返そうという考えで一致しました。

今まで通ってきた道を引き返している時、車のライトの中に人影を捉えました。それは、ヨボヨボのおじいちゃんの後ろ姿でした。

「うわー。あのおじいいちゃん悲惨だなー。いきなり降られたから傘持って来てなかったんだな」

ハセガワが言いました。

そのおじいちゃんは、どしゃ降りのなか、傘も差さずに歩いていました。歩調は老人らしくとても遅く、小さな歩幅で一歩ずつ足を引きずるようにして歩いていました。

私達は、そのおじいちゃんを追い抜くとき、チラッとその顔を見ました。おじいちゃんはうつろな目でトボトボと歩いていました。

まるで雨が降っている事に気づいていないかのような感じの無表情で、自分の足元だけを見ていたのですが、通り過ぎるとき一瞬私達と目が合いました。でもその姿はすぐに遠のき、バックミラーの向こう側へとすぐに消えていきました。

「あのおじいちゃん、もしかして徘徊老人なんじゃない?」

私が言いました。ハセガワも「あー。そうかもしれない」と相槌を打ったのですが、お互いそれほど興味が無かったのですぐに気を取り直し、住宅街を抜ける道を探す事に専念しました。

なかなか住宅街から抜け出せず、ぐるぐる回っていると、再度、あのおじいちゃんの後ろ姿を捉えました。

「うわ! ここに戻っちゃったよ!」

ハセガワが言いました。

それはそうと、そのおじいちゃんはもうズブ濡れなのに、ほとんど移動出来ていませんでした。

「あのおじいちゃん風邪ひいちゃうな」

と、多少、同情的な言葉を言ったものの、私達は住宅街からの抜け道を探すほうが重要でした。

雨足も強くなって道が見づらくなる中、ついに住宅街を抜ける事が出来ました。

しかしそこはアスファルトで舗装された道ではなく、田舎道らしい砂利道だったのです。周囲の景色はほとんど森です。

「こんな所に出てしまったか!」

ハセガワはそう言いながらも、その道を真っ直ぐ進みました。厳密に言うと、脇道が一切見つからなかったので真っ直ぐ走る以外仕方が無かったのです。

気がつくと日はどっぷりと暮れていました。土砂降りの林道は不気味な雰囲気があります。

私達は一刻も早くこの道を抜けようと車を走らせました。

しばらく進むと、ヘッドライトの中に人影を捉えました。車が近づくにつれ輪郭がはっきりしてきます。その人影は、あのおじいちゃんでした。

「マジかよ……」

思わず、私達の口から驚きの言葉が漏れました。

おじいちゃんを追い越す時、「見てはいけない」と本能的に感じていたのですが、ついチラっと目をバックミラーに向けると、おじいちゃんはおもいっきりこちらを見ていました。凝視というやつです。

私達は無言でした。

なんて言って良いか分かりませんでした。

無言のまま車を真っ直ぐ走らせていると、正面を照らすライトの中に人間の後ろ姿が現れました。

あのおじいちゃんでした。

もう我々は絶対に見ないようにしなければ!という覚悟で、一切目線をそちら側に向けずに直進しました。道の先はまだ真っ暗闇です。出口が見えてきません。脇道もありません。

「やばい。やばい……」

ハセガワがうわ言のようにつぶやいています。

「ハセガワ、やばいの分かるけど落ち着けよ!」

「違うんだって。あのじーさん消えないんだって!」

と言って、バックミラーをチラチラとずっと見ています。まさかと思って、私もバックミラーを覗いてみると、鏡の中の向こう側にいるあのおじいちゃんが、まるで鏡に張り付いているかのように、こちらを見つめたまま消えないのです。どれだけスピードを出して前進しても遠くに消えていかないのです。

「うわー! やべーよ!」

私もどうして良いか分からずパニックになりました。

その時、正面のライトの中におじいちゃんがまた現れました。しかも今度は正面を向いてこちらに向かって歩いてきます。

「うわあああああ!!」

ハセガワはブレーキを踏んでしまいました。

車が止まると、おじいちゃん運転席に近づいてきます。

「なんで乗せてくれないの?」

おじいちゃんはそう言いました。私達は車の中に居て、おじいちゃんは外にいるのに、窓なんか開いていないのに、はっきりと聞こえました。

「なんで乗せてくれないの?」

もう一度言いました。

私達はかなりビビっていたので何も声を発することが出来ませんでした。

すると突然、ハセガワは車を発進させました。

一言も発せず猛スピードで一本径の林道を飛ばしていました。

私は恐る恐るミラーを覗くと、おじいちゃんの姿は遠ざかって見えなくなりました。

そして、そのまましばらく行くと、「抜けた!」とハセガワが言いました。

私達の目の前には、ガードレールや標識が並ぶ舗装された道が広がっていました。私達は安堵の声を上げると、一目散に、人のたくさんいる都市部を目指したのでした。

あのおじいちゃんが一体いつから私達に付きまとっていたのかは定かではありませんが、今もあの道を徘徊しているのだけは間違いないでしょう。

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