押される!(東京都) | コワイハナシ47

押される!(東京都)

東京都 A・T 男 23歳 会社員

僕の勤めている会社は大手の製造業の一つなのですが、この夏に「ある地域の工場を移転するので、その廃棄される工場の引越しと後片付けを手伝はないか」というお達しがありました。

これは強制ではなく任意という事でしたが、お盆休み期間中に行われる休日出勤扱いの仕事なのでお金にもなるし、個人的にお盆休み中にこれといった用事も無かったので引き受けました。その工場の引越しと後片付けのスケジュールは二日間でした。

工場というのは、大体、辺鄙な所に建てられているものですが、今回僕らが行く工場も郊外の寂れた街にひっそりとありました。

僕は初めて訪れる街に多少戸惑いながらも、教えられた道筋を頼りにその廃棄される工場にたどり着きました。

工場の中はもう機材がほとんどの撤収されていて、埃に汚れたコンクリートむき出しの床や壁だけという殺風景な状態でした。その中で僕らがやる事は、再使用出来ない機械の撤去と部屋全体の掃除でした。機械の撤去なんていうのはオマケみたいなもので、実際は広大な工場の掃き掃除が仕事でした。

大して力仕事でもないし、弁当は出るしで、これで休出手当が付くんだからラッキーな仕事だなー、と思いながらその日の仕事を終えると、僕は帰路につき、駅のホームで帰りの電車を待っていたのです。

その駅は街外れの小さな駅らしく、駅員がいない無人駅でした。ホームも小さく、設置されているベンチには、同じ会社の人間の数人しか座っていませんでした。街の人間はいないようです。

僕はベンチに腰掛けながら電車の到着を待っていると、不意に誰かに肩を叩かれました。

しかし振り返ると誰もいません。

「おかしいな?」

僕は心の中でそう思いましたが、単なる気のせいだろうと思って深く考えず、再び電車の到着をのんびりと待つ事にしました。

すると、また、トントン。と、何者かが肩を叩くのです。振り返ってみても、やはり誰もいません。

僕は左右を見渡しましたが、ホームにまばらにいる人達はそれぞれが思い思いの場所におり、近い場所には誰一人いません。不気味に思った僕はベンチから離れ、自動販売機で缶コーヒーを買いました。

自動販売機の横で立って缶コーヒーを飲みながら電車の到着を待つ事に切り替えた僕の肩を、またしても何者かがトントンと叩いてきました。

「うわ! なんだよ。お盆だから幽霊かよ!」と、僕は霊体験をしているのか単なる気のせいなのか分からないまま、心の中で悪態をつきました。

嫌な気分でホームにいると、電車の到着を告げるアナウンスが鳴りました。

「やっとだよ。さっさと帰ろ」

ワケの分からない現象に不安を感じていた僕は、さっさと駅のホームの白線の前に立ち、電車の到着を待ちました。

プァァァァァァ。

警笛の音が聞こえて、線路の向こう側に電車が姿を見せました。

その時です。

誰かが僕の腰に手を掛け押して来たのです。

「なんだよ!?」

僕は戸惑いながら後ろを振り向くと誰もいません。ホームで待っている人間は、全員、僕とは違う所に列を作っています。

まわりには誰もおらず、僕は完全に一人でした。

電車が近づいてきます。

僕の腰に掛かっている誰かの手の感触は、ゆっくりと確実に押して来ます。そして、その押す力は、だんだんと強くなっていきます。僕は、その押してくる手に殺意を感じていました。

「やばい!」

金縛りにあってるわけでもないのに、逃げる事が出来ません。

僕は両足を踏ん張ってただひたすら耐えていました。

プァァァァ!プァァァァァ!!

汽笛が鳴らされて電車がホームに入ってきます。

その瞬間、ドンッ!と力強く背中を押されました。

僕は必死になってもんどりうって、自分の立ってた横の方に倒れこみました。

ガァァァァっと、目の前を電車が通り過ぎていきます。ホームに並んでいる人達は、一人ですっ転んでいる僕に誰も関心を寄せません。

僕は立ち上がると、電車のドアの「開」ボタンを押してさっさと中に逃げ込みました。

車内は空いていたので座席に座り、発車の時を今や遅しと待っていました。しばらくして、「発車します」のアナウンスと共に電車が動き出しました。

僕は電車の中から、過ぎ去ってゆく無人駅のホームを眺めていると、ホームにさっきまで居なかった男が立っていました。

短パンにTシャツというラフな服装のその男は、ジーッと電車の窓越しにこちらを見ていました。電車に加速がつき、ホームから離れると、その男は見えなくなりました。

 あの男は霊だったのでしょうか? 道連れを探していたのでしょうか?

僕はこの不条理な体験に恐ろしくなり、「申し訳ないですが……」と上司に言って翌日の仕事は休ませてもらいました。

あの日以外でこのような体験はしていませんが、いつまたこのような出来事に巻き込まれないか不安でなりません。

自分の意思とは無関係に霊体験というのはしてしまうものなのですね。

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