海水浴場の更衣室(千葉県) | コワイハナシ47

海水浴場の更衣室(千葉県)

千葉県 Y・S 男 20歳 大学生

ついこの間、友達と海水浴に行った時の話です。

僕たちは午前中に海水浴場に到着すると、着替えようと更衣室に向かいました。海水浴湯に更衣室があるのは不思議と他所の人は思うかもしれませんが、僕たちの地元の海水浴場に更衣室は当たり前のように備えられてます。仮説のプレハブ小屋みたいなやつで、海開きしている時だけ設置していて、海水浴のシーズンが過ぎると撤去されてしまいます。

その更衣室は、溺れてる人の救助や浜辺で違反行為をしている人間を取り締まるために居る監視員や係員、ライフセーバーの詰所の隣に併設されています。これは多分、盗撮とかを取り締まるためだと思います。

それはさておき、僕らが更衣室に近づくと、更衣室の入口で海パン姿で両手にカバンとかズボンとか、恐らく自分の来てきた服を抱えている一人の若い男が係員やライフセーバーの人達に囲まれていました。僕はその男を見て、「覗きかなんかをしようとしてとっ捕まったんだなー」と思いました。気にせず更衣室に入ろうとすると、

「あ~! 入らない方が良いよっ!」

と、その海パン姿の男が必死の形相で止めてきました。あまりの必死さに僕らは立ち止まると、友達と顔を見合わせた後、「なんで?」と聞きました。

「幽霊が出るよ! 幽霊が部屋の隅っこに出てくるんだって! 僕一人しかいなかったのに、いきなり目の前に出てきて近づいてくるんだって!」

海パン姿の男は、そう、まくし立てました。

「本当なんですか?」

僕らが周囲の係員やライフセーバーの人達に尋ねると、みんな一斉にうつむいてなんかモゴモゴ言いだしました。その姿は、幽霊が出るとかより、その幽霊話をしている海パン男の印象について口ごもっているようでした。

僕も正直な話、不謹慎ですが、その海パン男がいわゆる知的障害者に見えていました。ようするに、知的障害者の言っている事だから話の内容に関しては信憑性が無いのだけど、その事をこの海パン男にどう説明したら納得してもらえるのかで戸惑っている感じでした。こういったタイプの人を説明するための言葉を選ぶのが難しいのは、僕もなんとなく分かります。そうやって言葉を掛けあぐねている間、ずっとその海パン男は「幽霊が出るんです! 更衣室の隅っこに突然出て来たんです!」と言い続けていました。

何かの勘違いだろうなと思いつつも、なかなか更衣室に入る気が僕も友達も起きません。

さすがにあんなに必死に「幽霊が出る!」と何回も言われ続けると、「もしかして本当に出るのか?」という気もしてきます。

「どんな幽霊だったんですか?」

僕が聞きました。

「男ですよ! サラリーマンの人が出てきたんです! 突然、目の前にです! 入口から入って来たんじゃないんですよ! 部屋の隅っこに突然出てきたんです!」

海パン姿の男がまくし立てます。

僕は返しの言葉をなんて言って良いか分からず、口から言葉が出てきませんでした。彼の言う話の内容は一見バカバカしくて普通なら笑ってしまいそうになるような話のはずなんですが、本当に真剣な真顔で訴えかけられると何も言えなくなってしまいました。取り囲んでる係員の人達も笑わず、無言で困った顔をしていました。すると、その中の一人が、「どこら辺にその幽霊が出たのか、ちょこっと中で教えてもらえる?」と海パン男に言いました。

「嫌です! もう入りたくありません! 怖いんですよ! こっちに近づいてくるんです! 入りたくありません!」

海パン男は泣きそうな顔で訴えました。

僕達はだんだん怖くなってきました。幽霊話が本当の事はどうかはわからないけど、この状況ヽヽがなんとなく怖い感じで、「もう泳がなくて良いか」という気になっていました。

「じゃあ、君はここに残って、我々だけで入ってみよう」

一人の係員が言いました。「君」というのは海パン男の事です。

「そうですね。入ってみましょう」

残りのスタッフ達も同意しました。

「入らない方が良いって! サラリーマンが出て近づいて来るんだって!」

海パン男が訴えます。それをなだめながら、海水浴場のスタッフ達が更衣室の出入り口を開けて入っていきます。更衣室は十畳かそこらくらいのスペースしかないので、ドアを開けたら全てがすぐに見渡せます。当然、中には誰もいませんでした。僕達は外から中の様子を見ていました。しばらくして、スタッフ達が出てきました。

「大丈夫だな」

係員の人が言いました。

「ダメですよ! 幽霊だからいないんですよ! 着替えてると出てくるんですよ!」と、食い下がる海パン男をなだめながら、スタッフの人達は「何もないんで大丈夫ですよ。お騒がせしました」と僕達に言いました。

その言葉を聞いて、僕達は拍子抜けした感じで更衣室に入って行きました。

僕達は、ちょっとだけビクビクしながら着替えると外に出ました。当然、幽霊は現れませんでした。海パン男がこっちを怯えた目で見ていたので、「何も出てこなかったので、もう大丈夫だと思いますよ」と僕は声を掛けました。

「なんで信じないんだよ! ほんとに出たんだよ!」

海パン男はしきりにそう言って悔しそうにしていました。

僕達はもう相手にしないようにして、海に向かいました。

数時間ほど、僕達は海で泳いだり浜辺で体を焼いたりして過ごしました。そのあと、お腹が空いたので、海の家に行って焼きそばを食べていると、先ほどの係員の人がやって来ました。

「さっきは災難だったね」

みたいな話をしていると、海の家の中にあるテレビがお昼のニュースを始めました。何の気無しに見ていると、僕達の地元の近くの海で水死体が発見されたというニュースが読まれました。

「水死体の身元は、○○県○○市に住む大学生、○○××さんです」みたいなアナウンサーの言葉と共に出てきた、その水死体の身分証明書の顔写真が、あの海パン男の顔でした。

遺体の状態は、死後数日経ってるという事でした。

僕達は愕然としました。

僕達が言葉を交わした相手は何者だったのでしょうか?ただの人違いで、単なる他人の空似だったのでしょうか?

海パン男と水死体の人物が同一人物なのかハッキリした事は分かりませんが、僕が体験した話は事実です。

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