黒の腕時計(岩手県) | コワイハナシ47

黒の腕時計(岩手県)

岩手県 I・K 男 33歳 溶接工

私は数年前まで自衛官をやっていました。

知ってる人は知ってる事と思いますが、自衛隊駐屯地(平たく言うと基地のこと)には怪談話はつきものです。これは、いわゆる学校の怪談とおなじ類のもので、「あそこにはお化けが出るよ」と頻繁に言われるのですが、それほど信憑性の高い目撃談はありません。中の隊員達も、なんとなく(お化けが)出そうだから、言いだしっぺの先輩方と一緒になって「出そう」と言ってるだけです。しかしそんな中で、ごく稀に本当に幽霊と遭遇してしまう事があります。

自衛隊は閉鎖された狭い世界なので人の出入りの変化はすぐに分かりますし、何より自衛隊関係者以外が迷い込むなんて事はまずありません。ましてや、見知らぬ人物が宿舎内をウロチョロと動き回る事なんて不可能です。しかし、私は遭遇してしまったのです。

あれは何の変哲も無い一日の事でした。毎日の日課が終了し、宿舎で寝ていた時の出来事です。

私達隊員の寝るベッドは二段ベッドで、私が寝る方は下の方でした。上は別の隊員が寝ています。その隊員を仮にAとします。

就寝時間は宿舎の電気は消されています。私は暗闇の中、ベッドで横になりながら、眠くなるまでヘッドフォンで音楽を聴いていました。これは毎日の私の就寝スタイルです。音楽を聴いていると次第に眠くなってきます。ヘッドフォンで音楽を聴いているうちにだんだんと眠くなってきたのでヘッドフォンを外し、あとは黙って眠りに落ちるのを待っていました。そして、気がつくといつの間にか深く眠り込んでいるのです。

いつもなら、こうして眠り込んだ後は朝まで目覚めないのが通常でした。しかし、その時はなぜか途中で目が覚めたのです。

私は唐突に目を覚ますと、今何時なのかを知ろうと枕元の時計を見ました。まだ0時かそこらの時間で、朝まではまだかなりの時間がありました。宿舎内は当然のように真っ暗です。

私はもう一度寝ようと思い目をつぶりました。すると、何か聞こえてきます。誰かがブツブツ言っているのです。

「……明日、雨降るのかな……晴れてくれないと困るな。……せっかくの休みなのに雨降ったらどこにも行けねえし、ずっと家の中居るのも……」

というような内容の独り言がブツブツとずーっと聞こえてきます。しかも、その声がささやくような感じの大きさではなくて、かなりはっきりとした大きさの声で聞こえて来るのです。

「誰だ? 何言ってんだよ、こんな時間に」

私はそう思って、あたりを見回しました。

独り言を言っている犯人は、私の上の段で寝ているAでした。

Aはベッドから腕を外に放り出した寝相でブツブツとしゃべっていました。かなりの大きさでしゃべっているにも関わらず、残りの隊員は起きる様子も無くそれぞれが寝入っていました。

この独り言はうるさかったので、Aに注意しようとしましたが、それで余計に騒々しくなってしまうのも面倒なので黙って寝ることにしました。しかし再び寝ようとしている私の耳にAの独り言がずーっと聞こえてきます。

「Aのヤツ、うるせーなー」

と、私は内心で思っていると、眠りたいのとは裏腹に次第に目が冴えてきてしまいました。その時です。私は、立ち並ぶベッドの間を通る何者かを視界の片隅に捉えました。

初めは、隊員の誰かがトイレに立ったのかと思ってました。しかし、その何者かの姿は白いモヤのような姿で、明らかに人間ではありませんでした。

「うわ! なんだあれ!?」

私は心の中で驚きながら必死に目を瞑りました。その間もAの独り言は続いています。

私は寝てしまえば何とかなると自分に言い聞かせて寝ようとするのですが、Aの独り言のうるささと恐怖のため全然寝れません。そうして時間だけが過ぎていく内に、私の右腕に違和感を感じる様になりました。なんか右腕をしぼられている様な感覚です。

「なんだ!?」

私は思わず目をあけて自分の右腕を見ると、そこには、さっき目撃した白いモヤが座っていました。超至近距離であるにも関わらず、白いモヤは白いモヤにしか見えませんでした。私はその瞬間、金縛りにかかりました。全く身動きが取れません。その間もAはブツブツと「明日の天気がどうした」とかみたいな事をつぶやいています。

 私はAに助けを求めようと、上の段に寝ているAに向かって呼びかけました。

「おい! A! 助けろ!」

私の呼びかけを無視して彼はブツブツとつぶやき続けています。Aはベッドから腕を放り出していました。その腕には腕時計が巻かれています。見ると黒いデジタル時計で、時刻は五時でした。

「Aの時計、すげー時間が遅れてるな」と思いながら、私はなおも助けを求め続けました。

Aは私の声は全く聞こえない素振りです。私はヤケになって、金縛りを解こうとベッドの上でジタバタと動こうとしました。しかし、体は言う事を聞いてくれません。私は怖かったので、絶対に目を開けてなるものかと固く決意し、逆に黙ってみる事にしたのです。その間も独り言は延々とその後も続き、次第のその声が遠くに聞こえてくるようになりました。

私は、いつの間にか寝てしまったのです。

 翌朝、何事もなかったかのように朝を迎えると、私はAに昨夜の事を言いました。

「オレが金縛りにあって怖い目にあってる時に、なに天気の心配なんかしてんだ?!」

と、軽く冗談っぽい感じで言いました。

「は? オレ、ずっと寝てたけど?」

Aはそう答えました。

「嘘つけ! 昨日の夜中、独り言ずっと言ってたぞ。じゃあ、あれ寝言か?」

私は問いただすものの、彼は一向に否定し続けます。埒があかないと感じた私は話を変え、「おまえは腕時計をしたまま寝てるのか?」と聞いてみました。

Aはそれも否定しました。

「嘘つけ! 黒い腕時計してたじゃん!」

私はなおも食い下がると、Aは自分の腕時計を私に見せてきました。それは、ごく一般的なシルバーのアナログ時計でした。

私は言葉を失いました。

私のベッドの上で寝ていたものは、一体なんだったのでしょうか?

シェアする

フォローする