背広姿の男(群馬県) | コワイハナシ47

背広姿の男(群馬県)

群馬県 O・S 男 27歳 会社員

この体験をしたのは、私がまだ大学生だった頃の話です。

私自身は霊感というやつが全然無いし、家族の中にも霊体験なんてした事のある人間は一人もいませんでした。だからといって、幽霊の存在は信じていなかったのかというとそんな事はなく、むしろ他人の霊体験の話やテレビとかでやってる心霊体験の番組とかは好んで見ていました。

私はそれまで、「幽霊はいてもおかしくないし、いなくても別にいいや」というスタンスの人間でしたが、自分が霊的な物に対して非常に鈍感なのを自覚していたため、自分の人生の中で幽霊に遭遇する事は絶対に無いと思っていました。しかし、そういう事はお構いなしに幽霊とは遭遇してしまうものなんだな、と感じた出来事をこれからお話しようと思います。

あれは私が大学一年生だった頃の話です。

大学に入学して初めて出来た友人達と夏休みに遊んでて、その夜ドライブに行くことになりました。それというのも、友人の家でダラダラと他愛も無い話をしている時、違う県から進学して来た友人が、ここら辺の地元の心霊スポットとかってないの?という話をし出したのがきっかけでした。その友人の名前を仮に高田とします。

その質問に対して、地元の人間である鈴木(※仮名)が「あるよ」と言って、地元の人間しか知らないという触れ込みの心霊スポットの話をしました。

その話というのが、修験者の修行場になってる山の話なのですが、昼間は普通にその山に入山しても問題無い(現実に私も登ったことがある)のですが、夜の丑三つ時、つまり午前二時を過ぎてから入山するとダメだという話でした。どうダメなのかというと、その山を入ってすぐの所に神社があるんですが、その神社の前には狛犬の像があって、その狛犬と目が合う(目を合わせる)と山の霊に取り憑かれる、という事らしいのです。私もその狛犬を見たことはありましたが、いたって普通でいわくなんかありそうに感じませんでした。しかも、その山は修験者の修行場とはいえ、一般開放もしているような山なので、夜は柵を閉めて山の中に入れないよう、きっちりと管理されているような山でした。

私達は、本当にただの興味本意で、深夜にその山に行ってみる事にしたのです。

その山の入口に到着したのは深夜の二時半頃でした。

入口の鉄製の柵は閉じられ、しっかりと鍵が掛けられています。でも、その柵は、飛び越えようと思えばいくらでも飛び越えれるような高さしかなく、「立ち入り禁止」という程の厳重な管理ではない印象を受けました。所詮は、それなりの大きさの神社しか無いただの山なので、特に守るものも無いようでした。

「なんか、……ただの山だな」

高田が言いました。

確かに、神社とかが有るので宗教的な雰囲気は少しは感じられるのですが、はっきり言ってパッと見の印象は「夜の山」以外の何者でもありませんでした。

「ここの狛犬と目が合ったらヤバイんだっけ?」

私が聞きました。

「うん。そういう話だよ」

と、鈴木も答えたのですが、言った本人も信じていないようでした。

私達は柵を越えようと思い、柵に近づきました。その時、今まで気づきませんでしたが、閉じられた柵の前には看板が立てかけられていました。

『この山は、古来より山岳宗教の修行の場として用いられて来た神聖な山です。

この山を穢すことの無いよう、入山するにあたっての宗教上の厳格な決まりがありますので、入山する方はその決まりを守ったうえでの入山を心がけて下さい』

その看板にはそのような文言が書かれていました。そして、その看板にずらずらと書かれていた「入山のための決まり事」の中に、しっかりと『丑三つ時(午前二時頃)の入山は控えて下さい』と書かれていました。

「夜中に山に入るなって、ただの宗教上の理由なんじゃねえの?」

「イスラム教は豚肉禁止、みたいな話ってこと?」

「そうそう」

高田と鈴木がそんな会話をしていました。私も、「入山禁止」の理由はそのような宗教上の理由に感じていました。私達は無宗教なので、全然関係無いなと、より軽い気持ちになりました。

結構、拍子抜けした私達でしたが、せっかく来たのでとりあえずお参りでもしようと話し合って、それぞれ柵を超えて神社の敷地内に降りました。

閉じられた柵から神社まではすぐです。

歩いて社に近づくと、神社を囲むようにある二体の狛犬の石像が見えました。

「アレと目が合うとマズイんだよな?」

高田が言います。

「らしいよ」

鈴木がそう答えたものの、言った鈴木もそんな話を信じていない感じでした。

私達は狛犬の石像に近づき、その顔を覗き込もうとしました。すると、その時です。

『見るな!』

と、どこからともなく怒声にも似た声が聞こえました。

私達は一瞬その声で動きが止まると、三人で顔を見合わせました。

『帰れ! こんな所で何をやっている!』

またもハッキリその声が聞こえました。

私達はただならぬ雰囲気を察知して、狛犬の顔を見ないようにして辺りを見回しました。

山の中の林の中の暗がりに、背広姿の男が立ってコチラをジッと見つめていました。

「うわ~!!」

私達は一斉に悲鳴を上げて逃げ出そうとしましたが、身体が動いてくれません。この場所といい、その男の醸し出す雰囲気といい、明らかにこの世の人間とは違うものでした。

背広の男は林の中から一歩も動かずに話かけてきました。

『すぐ帰れ! 帰る時に絶対に振り向くな! 二度と来るな!』

その背広の男は、そう言って怒鳴るのですが、明らかに口元が動いておらず、私達の頭の中に直接声が聞こえて来るのです。

私達は震えながら、その男の言うとおり、ワケも分からぬまま踵を返し、入口である柵まで走って逃げました。

その時、背中越しにガサゴソガサゴソと林をかき分ける音がしていました。

何かが近づいているような気配です。

「うーーーーわ~!」

と、私達は大声をあげながら柵まで走ると、そのまま必死になって柵をよじ登って元来た道を引き返しました。

車に乗って逃げるときも、「鏡越しにでも後ろを見てはいけない」と感じていたので絶対に見ないようにしました。

私達はようやくアパートに戻ると、多少落ち着きを取り戻したので先程の出来事を振り返って見ました。

「あれ、誰だったんだ?」

私が言うと、「分かんねーけど、普通の人間じゃねーよ!」と高田が怒鳴り気味に言いました。

「よく考えると、あんな山の中で背広来てたから、あの山の管理人とかだったんじゃないの?」

鈴木が言いました。

そう言われて私もそんな気がしましたが、あの時感じた得体の知れない空気を思い出すと、やはりあの背広の男は人間とは思えませんでした。実はあの背広の男は人間で、この恐怖感はあの山の「雰囲気」が作り出したものだと思おうとしましたが、実際にあの場を体験した私にはそう割り切って考えれるものではありませんでした。

あの日以来、私達はあの山に近づいていません。一般人の入山が認められている昼間も行っていません。ですので、あの社の狛犬と目が合ったらどうなるか、あの背広の男は何者だったのかは、未だに分からないままです。

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