お父さんが見つからない(四国地方) | コワイハナシ47

お父さんが見つからない(四国地方)

大分県 D・K 男 33歳 自営業

私はバイクに乗るのが趣味なので、仕事が長期休暇に入るとしょっちゅうツーリングに出かけています。近県を回るだけの時もあるし、何日も掛けて遠くの地方まで行くこともあります。この体験は、普段大分県に住む私が、四国のある県をバイクで訪れた時に経験した話です。

ツーリングが好きな人なら分かると思いますが、バイクで流すなら都会より田舎の方が良いです。それは、田舎の道の方が広いし景色が綺麗だし交通量も少ないしで、バイクがスイスイ進むからです。田舎は自宅の近所では見られないような風景見られるし、なにより風土の違う知らない土地を通り過ぎるのは無条件で興奮します。

すごく気に入った街で何度もツーリングで訪れる街もありますが、その日私が訪れた四国の街は、その時初めて訪れる街でした。

その街は、どの県にでもある普通の地方都市といった趣で、非常に落ち着いていて居心地の良い街でした。私はめぼしい宿を見つけるとチェックインを済まし、早速その街周辺をバイクで散策する事にしました。

その街は観光地というわけではなかったので、いかにも「お土産物屋」みたいな感じの店はなく、何から何までいたって普通で、何の変哲も無い街だったのですぐに退屈してしまいました。

「ここに居ても特に何も無いな」と思った私は、隣町、もしくはその隣街ぐらいまで遠征してみる事にしました。

その街から隣の街に抜けるまでの間に、結構な距離の山道がありました。

田舎の山の中をバイクで流すのは楽しいです。

ちょっとした森林浴気分を味わえるので、私はあまりスピードを出さずに流すことにしました。幸い対向車もおらず、一人で山道を優雅に駆け抜けていました。

しばらく進んでいくと緩やかな上り坂に差し掛かったので、私は坂道を一気に駆け上ると、ちょうどバイクを停車出来るスペースのある小さな高台に出たのでひと休みする事にしました。

高台から街を一望出来たら良かったのですが、実際は目の下に広がる景色は森だけで、木々以外の何も見えません。本当に山の中という感じです。

私はリュックサックからペットボトルの水を取り出して飲みながらしばらく休んでいました。

するとその時、

「何してるの?」

と不意に後ろから声がしました。

振り向くと十歳くらいの少年がいます。

少年の周辺を見回してみても自転車とかの乗り物が無かったので、近くの街からここまで歩いてきたと思いました。

「バイクで旅行に来たんだよ。今はひと休みしてるとこ。ここの近くに街とかあるの?」

私はその少年が隣街から来たと思ったので訊いてみました。

「あっち」

少年はそう言うと、山道の先を指差しました。

「近い?」

「ううん。遠いよ」

「どうやって来たの?」

「車で」

私は、おかしな事を言う少年だなあ、と思いながらも子供の言う事だからあまり深く詮索せずにいました。

「その車は、どこにあるの?」

「わかんない」

ポツポツと言葉少なに答える少年のおとなしさから考えて、もしやこの子供は迷子なんじゃないか?と、私は考えていました。

「誰が運転してたの?」

「お父さん」

その子供以外、「お父さん」なんて見当たりません。

周りには、私と私のバイクとその子供以外、人っ子一人いないのです。車なんてどこにもありません。

まさか、お父さんに山に置いてけぼりにされた?

少年になんて言葉を掛けようか迷っていると、少年の身体に気になる所を見つけました。

それは首から下の部分なんですが、大半がシャツに隠れていてハッキリとは見えませんが、明らかに少年の胸板が傷を負っているのです。しかも、ちょっとしたカスリ傷レベルではなくて、ケロイドみたいに皮膚が赤黒く広範囲に渡って崩れているのです。赤黒いということは、まだ真新しい傷という事です。その傷口を見た感じだと、痛みは相当なもののはずですが、少年の表情からは何も読み取れませんでした。

変な話ですが、その時私は「まさかこれは児童虐待の現場に遭遇してしまったんじゃないだろうか?」と思ってしまいました。

親が子供を肉体的に責めたあと、山の中に連れて行って置き去りにするという陰湿な事件の現場に遭遇してしまったんじゃなかろうか? と、半ば真剣に考えてしまいました。

でも、まだ真昼間で、「こんな時間帯に子供を捨てるだろうか?」とも考えていました。

今考えると、本当に不謹慎です。

真実はどうであれ、とりあえずこんな山の中に少年を一人で残して置くわけにはいかないと思い、街まで連れて行って警察に保護してもらおうと考えました。

「一人で帰れる?」

少年はその質問に答えず、「前、ここで事故があったんだよ」と言いました。

「そうなの?」

「うん。それでね、お父さんがまだ見つかってないの。あっち側に落ちてったの」

少年が高台の下の森を指差しました。

「探さなきゃ行けないから、警察に連れてってよ」

……

少年は私の手を握ってきました。

その手も赤黒く崩れていました。

……

私は、とんでもないものに遭遇してしまった、とわかりました。

冷や汗が止まりません。

「バイク乗せてよ」

絶対に乗せてはいけない事は分かりきっていたので、少年の手をやさしく振りほどくと、そこから少年とは一切言葉を交わさずにバイクにエンジンを掛けました。

「一刻も早く逃げなくては!」と考えていました。

その焦る気持ちとは裏腹にエンジンがなかなか掛かりません。

「ねえ、ボクもバイクに乗せてよ」

少年がバイクの横に来て訴えます。

そっち側を見ないようにしながら必死にエンジンを掛け続けます。

「ねえ」

その時、少年がハンドルを握る私の手を掴みました。

その手は、さっき見た時より崩れていました。

なぜか傷が進行していました。

「ボクもバイクに乗せてよ。お父さんのこと言わないと」

私は無視してエンジンを掛け続けました。

その間、ずっと少年は「ボクもバイクに乗せてよ。連れてってよ」と盛んに言い続けています。

震えながらエンジンをい掛け続けていると、ようやくエンジンが掛かりました。

「やった!」

私は心の中でガッツポーズをすると、宿のある街に戻るべく今まで来た道を引き返しました。

すると、

「そっちじゃないよ」

とあの少年の声がしました。

「嘘だろ」と思いました。

「そっちじゃないよ。反対だよ」

バイクを駆る私の耳元に、ハッキリとあの少年の声がします。

「そっちじゃないよ。さっき、あっちって言ったでしょ」

バイクの後ろには誰かが乗っている感触はありません。しかし、私はミラーで後ろを確認する勇気が出ませんでした。

感触は無くとも、私は確実に少年の霊に付きまとわれているのです。

どうしたら良いのか全く分からぬまま、とりあえずバイクを飛ばして街を目指します。

とにかく人のいる所に早くたどり着きたい気持ちでいっぱいでした。

「ここじゃないよ。帰って。さっきの所まで帰ってよ。お父さんがまだ見つかってないんだよ」

少年の声を聞きながら、これは、他人を事故らせて道連れにするような、いわゆる悪霊の類ではないのではないか?という気持ちに私はだんだんなってきました。だからと言って、幽霊に付きまとわれるなんてまっぴらゴメンです。

私はようやく街に入ると、必死で寺か神社を探しました。このままお祓いしてもらおうと思ったのです。自分のためにも、この少年の霊のためにも、その道の専門家に任すのが一番良い方法だと思いました。

「ねえ、聞いてよ。こっちじゃないってば。帰ってよ」

少年の声は聞こえ続けます。

私はようやく寺を見つけると、一目散に境内に向かって走りました。

「すいませーん! 誰かいませんかー! 和尚さーん!」

私の声を聞きつけて寺の人が足早にやってきました。

私が何かを言う間も無く、「ああ。子供だね。あなたに付いて来てるのは」と言い、即座に奥に通されました。

そこでお祓いみたいな事をしてもらうやいなや、あの少年の声は聞こえなくなりました。

お祓いが済んだ後も和尚さんは何事かをやっていましたが、詳しい事は分かりません。

お寺の中で休ませてもらっていると、しばらくして和尚さん達がやって来ました。そこで、あの少年はあそこで交通事故にあって亡くなった霊である事、父親と一緒に居たいのに見つからない事を訴えてさまよっていた事を知りました。

そして、「あなたが優しそうだったから、自分の望みを叶えてくれそう」と思って接触して来たのだとも説明を受けました。

私は霊を慰めるためにも、少年に教えられた「父親の居る場所」というのを伝えました。和尚さんは「警察に伝えておきます」と言ってくれました。

あの街に行く事はもう無いでしょう。ですので、その後、少年の父親が見つかったかどうかは私には分かりません。

無事見つかって、親子揃って成仏した事を望むばかりです。

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