ペンはどこだ?(東京都小金井市) | コワイハナシ47

ペンはどこだ?(東京都小金井市)

取材中に加藤が体験した話である。

「超怖い話」は各方面の多くの方々にご協力を頂いて執筆されている。おかしな体験をしたことのある知人友人には、取材中大変お世話になっているのだが、加藤自身が今回の取材の最中に出会った奇妙な体験について触れておくことにする。

加藤は小金井のとある喫茶店で、本編中に何度かご登場願った東沢氏の体験談を取材させて頂いた。前述の時計の話や修整液の話を始め、幾つかの不思議な体験談をお話し頂き、取材は終始滞りなく進んだ。

取材も終わりに近付いたとき、東沢氏は思い出したように呟いた。

「ああ、そうだ。もうひとつおかしな話があるんですが……ただこれは内密に、絶対に誰にも漏らさないで頂きたいんです。加藤さんを信用してお話ししますけど、これだけは記事にしないで下さい」

この後お伺いした「誰にも漏らしてはいけない話」に関しては、東沢氏との約束のためその内容を明らかに記すことはできない。

お話を伺った直後である。

「……という訳でこれは書かないで下さい」

「はあ、分かりました」

頷きながらテーブルに目を落とすと、最前までメモを取るのに使っていたペンがキャップを残してなくなっている。

「あれ?」

メモパッドの頁の間に紛れ込んでいるのかと思い、頁を繰ってみるが見つからない。加藤は無意識のうちにペンをしまい込んだのかと自分を疑い、コートのポケット、テーブルの下、椅子の後ろを探ってみるがペンは一向に見つからない。開けたキャップをペンの後ろに付けたままにしておいたのだから、キャップを残してペンだけがなくなるはずはない。

東沢氏が、いそいそとペンを探す私の不審な挙動に気付いた。

「どうしました?」

「いや、ペンが……」

仕事がらいつも大量の筆記具を持ち歩くのだが、どういう訳かその日は出がけにバッグに入れたはずのペンケースが見当たらず、たまたま携行していた予備のペン一本だけで取材を行っていた。

しかし、そのペンがないとなるとこの後の取材そのものができなくなってしまう。

「だって、さっきまでそのメモの横に置いてたでしょう?」

「やっぱりそうですよねえ……」

空虚な笑いをしてみたものの、確かにペンはなくなっていた。

加藤が使い掛けのペンをメモパッドに挟んでいたことは、東沢氏も記憶している。テーブルの右手には東京二十三区の地図が、左手には喫茶店のティーカップがあった。メモパッドとペンはその中央に置かれていたはずで、もしテーブルの下にペンを落としたとするなら、それらのテーブルの上の障害を越えていかなければならないはずだった。

「テーブルから転がってバッグの中にぽろっと入った……ということはありませんか?」

取材道具を詰めたバッグは椅子の下に横倒しに置かれていた。念のためバッグの蓋を開けてみる。バッグの上層にはマフラーが隙間なく詰め込まれ、ものが入り込む余裕もない。

「もしかしたら『今の話は書くな』という警告では?」

「……いや、そんな……はははは」

書いてはいけない話を伺った直後、一応、メモは書き残しておくつもりであったのは確かなのだが、こうまであからさまに実力行使の「警告」をされたのでは敵わない。祟りを恐れたという訳ではないが、加藤はそれを書き留めることを本心から諦めた。

「分かりました。今の話は聞かなかったことにしましょう」

「そうですね、忘れて下さい」

加藤と東沢氏は互いに虚ろな笑いを交わした。

「とはいえ、このままでは取材になりませんしね……」

加藤は予備の予備でもないものかと再びバッグの中をかき回した。バッグの最深部に手を入れたとき、使いなれたモノの感触が指先に触れる。

「さっきはあれだけ探しても見つからなかったのにい!」

ペンが見つかったのである。

こうして狐に抓まれたような奇妙な気分を残したまま、取材は切り上げられた。

読者諸氏は「それは単に捜し物が下手だっただけなのではないか」と思われるかもしれない。しかし事の次第の当事者として断言しよう。

数分の間、確かにペンは消失していたのである。

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