大晦日の写真(関東地方) | コワイハナシ47

大晦日の写真(関東地方)

翔さんは、関東のとある組を預かる偉い人。

「もう、ヤンチャをする歳でもないからね」

と、すっかり落ち着いた翔さんにも、キャリアの始まりというのはある。今でも歳を感じさせないダンディな二枚目だが、今から二十年ほど昔、新宿二丁目の超有名ホストクラブのナンバーワンとして鳴らしていた。

「毎年ね、年末になると常連さんに感謝するパーティをやる訳ね」

時代はバブルのまっただ中。誰も彼もお金の使い方がおかしくなっていた時代、それも歌舞伎町のど真ん中ともなると、連日輪を掛けて凄いことになっていたらしい。

「ドンペリがぶ飲みとかね。いけないよね、そういう飲み方しちゃ」

大晦日の営業が一段落すると、店には一晩で五百万くらい使うような、そんな大得意の常連客と店のスタッフだけが残った。

カウントダウンで盛り上がり、それからまた随分飲んで、年も変わった午前の二時か三時頃のこと。

宴たけなわに、客からリクエストがあった。

「翔ちゃん、一緒に写真撮ろォ?」

翔さんは、「うん、いいよ」とばかりに客の肩を抱いてポーズを取る。

「オイ、カメラあるだろ。撮れよ」

店の若いスタッフに、使い捨てカメラを持ってこさせた。こういう世界では店のナンバーワンは誰よりも偉い。若いスタッフは「ハイッ! 分かりました!」と、歯切れ良い返事をしてカメラを構える。

「おう。早く撮れよ」

「ハイ!」

返事は調子がいいのだが、スタッフはなかなかシャッターを切らない。

「シャッターチャンス狙い過ぎだよ、お前」

「ハ、ハイ!」

やはり切らない。お客をつまらない気分にさせてはいけない、と翔さんはぐずぐずするスタッフに喝を入れようと声を上げかけた。

「おい、いい加減に……」

「ひぃいぃいぃッ!」

突然、スタッフはカメラを放り出して飛び退いた。ミラーボールに照らし出された表情からは笑顔は消え、客の前だというのに眉根を寄せてどこか引きつった表情をしている。

そういう不快な空気を、客はすぐに気付く。

「やだァ、どうしたの?虫?」

「リエさん、うちの店にはそんなのいませんよ。おい、どうしたんだよ。酔ってんのか」

客を宥めつつ翔さんがスタッフを問い詰めると、スタッフは首を捻りながら答えた。

「それが……シャッターを押そうとすると、翔さんに何か集まってくるんです」

「何かって、何だそりゃ」

いやそれが、と口籠もる。

「そいつが言うにはね。芋虫みてえだとか、いやいやオタマジャクシみてえだとか、いやもっとでかい、サンショウウオみてえだ、とか。とにかく何だかしどろもどろで要領を得ない訳よ」

スタッフの説明を総合するとこうだ。

頭がある。手足もある。でも、頭は妙に大きくて、目玉はぎょろりとしている。手足はくるっと丸まって小さい。タツノオトシゴみたいなくるっと丸まった短い尻尾がある。

宙をうねうねと漂っているのだが、スタッフがカメラを構えると様相が変わる。

「そいつら、俺がシャッター押そうとするとワッて集まってくるんです」

シャッターから指を離すと四散するが、指に力を込めると、そいつらが翔さんの両足めがけて寄ってくるのが、ファインダー越しに見えるのだという。

「それって、アレか。……胎児か」

「そう。それです!そんな感じです!」

客が厭な顔をした。

僅かな常連とスタッフしか残っていなかったとはいえ、苦労して盛り上げてきた年越しの浮かれ気分は全て吹っ飛んでしまった。

「すみません、翔さん。何か俺怖くて……シャッター切っちゃいけないような気がして」

客を楽しませるホストクラブとしては大失態だ。スタッフはすっかり萎縮してしていたが、翔さんも責める気にはなれなかった。

結局全員がシラけた気分になって、解散。

「まあ、お客さん楽しませる商売が、そんなんじゃいけないんだけどね。もう、その年その場に居合わせた全員が、冷え冷えした厭な正月を送って。散々だったさ」

翔さんは、それ心当たりあったんですか?

「……それさ。その場では怖くて言えなかったんだけどさ。俺、その頃に二人ほど堕ろさせてたんだよな。ガキを」

翔さんは眉を顰めた。

「なあ、センセイ。やっぱそれかな」

……それでしょうね。やっぱ。

「それだよな。やっぱ」

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