足だけ(北海道小樽市) | コワイハナシ47

足だけ(北海道小樽市)

白葉君が小樽にいた頃の話である。

翌年の卒業を待つばかりとなった高校三年の冬、白葉君は仲のいい友人の家に入り浸る日々が続いていた。受験を控える友人達に比べ、既に就職も決まり、白葉君は文字通り悠々自適の日々を過ごしていた。

当時、白葉君が住んでいた家とある友人の家との間には、『毛無山の幽霊屋敷』と呼ばれる、地元ではあまりよくない噂で有名な屋敷に通じる直線道路があった。この直線道路は、さしたる障害物もなく素晴らしく見通しがいい道路であるにもかかわらず、やけに交通事故の多い所だった。

友人の家との直線距離はおよそ五~六百メートルといったところか。

雪深く、隣家を訪ねることも容易ではない冬の北海道である、ということを考えに入れるなら近いと言える距離ではないが、決して遠い距離でもない。通い慣れた道でもあり、地理的には少々の気味悪さを我慢すれば、普段の白葉君ならどんなに遅い時間になったとしても一人で歩いて帰ってこられる場所だった。

だが、その晩だけはなぜか一人で帰る気になれなかった。

たったそれだけの距離を、しかも高校三年生にもなって……と思われるかもしれない。しかし、そう思われても構わないほどに、その晩は一人で帰るのが怖かった。

そこで、友人の家で電話を借りた白葉君は、母親に迎えに来てくれるよう頼んだ。

「そう、今こいつの家にいるんだけど、車で迎えに来てくれない? うん。あ、そうそう。どんなに時間が掛かってもいいから、今夜だけはできるだけ気を付けて、ゆっくり走ってきて。そう、特にあの道路」

白葉君は胸騒ぎを感じながら、母親に念を押した。母親が車の免許を取ったばかり……という訳でもないが、妙な心配がよぎるのだ。

暫くして白葉君の待つ友人の家に、母親の車がたどり着いた。

ほっと一安心はしたものの、まだ胸騒ぎは収まらなかった。

「帰りもゆっくり行こうね」

白葉君母子を乗せた車は、毛無山の幽霊屋敷からまっすぐ離れていく直線道路を、ゆっくりとゆっくりと走っていった。

時間は既に夜中の二時を回っていた。

白葉君の母親は、対向車も横断車もいないひっそりとした交差点を、青信号であることを入念に確認してから車を走らせた。

信号を越えてから白葉君はふと背後を振り返った。

リア・ウインドウ越しに、今、車が越えたばかりの交差点の横断歩道を渡っている誰かの足が見えた。

が、見えたのは「足」だけだった。

「!?」

レインブーツを履いた膝から下だけの足が、交差点を渡っていたのだ。

膝から上はぽっかりと抜けて何もない。電柱や建物など、背後の風景が透けて見えるばかりである。

交互に歩みを繰り出す、男のものとも女のものとも知れない膝下だけの足は、車が交差点から離れるにしたがって次第に小さく遠くなり、その他の風景と同じように闇の中に溶けて見えなくなった。

リア・ウインドウ越しに蒼白な顔で闇を凝視していた白葉君は、今、自分が見てしまったものについて同意を求めようと、隣でハンドルを握る母親に向き直った。

「今の見た?」

だが、母親は無言のままだった。

彼の母親もまた、ルーム・ミラーを凝視したまま蒼白になっていたのである。

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