お守り(宮城県) | コワイハナシ47

お守り(宮城県)

下館君と枝原君のお守りの話である。

様々な災難から身を守るために「お守り」があるが、日常において我々の命に関わるようなことが起こることは稀である。

よく祖母や祖父から「お守りが守ってくれているからだ」という話を聞かされたことがあるが、そうするとお守りというのは「災難が来ないように、予防してくれているありがたい呪符である」ということになる。

若い頃の下館君は、とあるアイドルの追っかけだった。

日本全国を縦断するアイドルのコンサート・ツアーの後を追っかけて、同じ追っかけ仲間達とともに車で移動することが当時の彼の日常だった。

「あんたがどこで何をしているのか知らないけど、危ないことはしないでね」

家を出る前に母親に渡されたお守りは、彼のズボンのポケットに入れっぱなしだった。

その日、高速道路をひた走っていた下館君達の車は、宮城県白石のインターの近くで大事故を起こしかけた。

「あ、危ねえっ!!」

不意にハンドルを取られた車は、百キロ以上のスピードのまま、三車線ある道路の一番左から右まで一気にスリップしたのである。ドライバーの意志を無視した車は、あわや大転倒の挙げ句道路の外に転落するところだった。

ハンドルを握っていた仲間の咄嗟の判断で辛うじて事故を免れた下館君達は、気を落ち着けようと手近のパーキング・エリアに飛び込んだ。自動販売機のジュースを片手に一息吐いた下館君達は、先程の恐怖を思い出して改めてゾッとした。

下館君がふと思い出してズボンのポケットに手を入れると、最前までそこに入っていたお守りがなくなっていた。

枝原君がまだスキーを始めたばかりの頃のことである。

白銀の斜面に慣れ始めると、少しでも長く滑っていたくなるのは人情と言うものであろう。

ボーゲンを覚え、一応それらしく滑ることができるようになった枝原君は、林の中を巡る長い林間コースを探し、リフトでより高い場所まで登った。

じわじわと滑っていくうちに変化に富んだ斜面にも少しずつ慣れていった。

枝原君は、林の隙間から隣のコースに移ろうと、薄暗い樹々の間から明るい空間へ飛び出した。

が、そこにコースはなかった。

枝原君の身体は、それまで滑ってきた勢いに乗り、足場も何もない空中を舞った。

「……!」

彼は覚悟を決めた。

……雪面にバウンドして倒れ込んだ枝原君が失神していたのは、ほんの束の間だったらしい。

意識を取り戻した枝原君は、雪を払いながら自分が落ちてきた斜面を見上げた。が、それは斜面などという甘いものではなかった。そこは、高低差はおよそ三十メートルはあろうかという、瘤と僅かな低木の枝葉と剥き出しの岩に化粧された崖だった。

そこから落ちて生きていられる高さではなかった。だが、枝原君は骨折どころか傷ひとつ負わなかったのである。

枝原君がふと思い出して首から掛けていたお守りに手を伸ばすと、お守りは紐を残して消え失せてしまっていた。

お守りの効力が発揮されるような災難に遭遇すると、どうやらお守りは力を出し尽くした挙げ句に消え失せてしまうものらしい。

もし、あなたが持ち歩いているお守りをなくしてしまった経験を持っているとするなら、あなたはあなたの知らないうちに、何か命に関わるようなとてつもない災難をくぐり抜けていたのかもしれない。

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