雨の日の声(群馬県高崎市) | コワイハナシ47

雨の日の声(群馬県高崎市)

雨の日の話をする。〈高崎怪談会〉に二度参加して下さった女性S美さんは、子供の頃から不思議な現象にしばしば遭遇してきたという。

JR高崎駅の西口側には、江戸時代の城下町を起源とする中心街が広がっている。江戸時代の高崎は、現在の長野県や新潟県から移住して商売を始めた人々が数多くいたようで、〈小江戸〉と呼ばれ、商業都市として栄えてきた。現在も鉄道交通における便の良さは、県庁所在地である前橋市を凌いでいる。

S美さんの実家は以前、高崎駅の近くで飲食店を経営していた。一階が店舗で、二階は居間と両親の寝室に風呂とトイレ、そしてS美さんの部屋がある。洗濯物は二階のバルコニーに干していたが、ここには庇ひさしがないので、急に雨が降ってきたときには濡れてしまう。

ところが、S美さんが小学生の頃からそんなときに限って、しゃがれた女性の声がする。

「M野さあん!雨だよう!」

M野さんというのは、S美さんの結婚前の姓である。

隣に古い墓地があって、声はいつもそちらから聞こえてくるのだが、窓から外を見ても誰もいない。ただ、おかげで洗濯物を濡らすことなく済んでいた。中学生になってからもS美さんが一人で二階にいるときに限って、その声が聞こえたという。

ある日、前々から不可解に思っていた彼女は両親に訊いてみた。

「ねえ。雨が降ると、いつも『M野さあん、雨だよう!』って、教えてくれる人がいるんだけどさ、あれ、誰なのか知ってる?」

しかし、両親は訝しげに顔を見合わせた。

「そんな声、聞いたことないぞ」

「私もないよ。一度も」

今度はS美さんが訝しく思う番であった。

「おかしいわねえ。たぶん、近所の人なんだろうけど……」

S美さんは高校を卒業すると、東京の大学へ進み、実家を出てアパートで一人暮らしを始めた。その間に隣の墓地は管理する者がいなくなり、取り壊されて飲み屋街に変貌してしまった。

七月のある日、S美さんは久々に実家へ帰ってきた。夜中に自室で寝ていると、急に大きな雨音が聞こえてきたという。

「M野さん、雨だよ!」

「M野さあん!雨だよう!」

また女性の声が聞こえてくる。とはいえ、この夜は洗濯物を干していなかった。それにひどく眠かったので声を無視していると、今度は呼び鈴が激しく鳴り始めた。両親には聞こえていないのか、一向に出る気配がない。うるさくて我慢ができなくなった彼女は仕方なくベッドから起き出し、階段を下りて一階の玄関へと向かった。

玄関のドアを開けると──。

そこには真っ白な着物を着た痩身の女が立っていた。年の頃は四十五、六歳の見知らぬ顔で、引っ詰めに結った髪も白い着物も、降り頻る雨にぐっしょりと濡れている。

「いい加減にしない!!」

女がしゃがれた大声で怒鳴った。眉を吊り上げてこちらを睨んでいる。

「雨だって言ってるだろう!!」

だが、そこまで言い終えると、一瞬にして女の姿は消えてしまった。

S美さんは呆然とするばかりだったが、それを最後に、雨が降った日に洗濯物を干していても、女の声が聞こえることはなくなったそうである。

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