友達(群馬県) | コワイハナシ47

友達(群馬県)

Kさんは結婚してから五年間、市街地にある実家を離れ、郊外の公営住宅に住んでいた。そこは雑木林や田畑が多い、のどかな町である。

自営業を営む彼は、仕事が休みの日に五歳の娘を公営住宅の敷地内にある公園へ連れていった。Kさんは近々、妻子を連れて実家に戻ることに決めていたので、娘をその地域の幼稚園まで通わせていた。それが原因となったのか、娘は近所に友達がいなかった。この日も寂しそうに、あるいはつまらなそうに一人でブランコに乗っていたという。

しばらくしてKさんの携帯電話が鳴った。得意先からだ。今日は休みなのだが、仕方がない。電話に出ると、自宅にある資料を確認しなければならない用件だったため、娘を公園に残して一旦自宅まで引き揚げた。五分ほどして公園へ戻ってみると──。

娘がとても楽しそうに微笑んでいる。

「どうした?」

「お友達ができたの」

娘の話を要約すると、Kさんがいなくなってすぐに幾つか年上らしい見知らぬ女の子が近づいてきた。

「一緒に遊ぼうよ」

色白の女の子はそっくりな顔立ちをした幼い弟を連れていた。それから娘は何時間もの間、その姉弟とままごとや鬼ごっこなどをして遊んだ。姉弟のかわいらしい顔もよく覚えている。ところが、引き返してきたKさんの姿が遠くに見えると、姉弟は、

「じゃあね!またここで会おうね!」

「バイバイ!」

いきなり駆け出して高く跳躍し、公営住宅の脇にある金属製の柵を乗り越えた。その向こうには雑木林が広がり、用水路が流れている。姉弟は用水路に飛び込んだり、陸地へ駆け上がったりしながら走り去った。二人の動作は大変な速さだったそうである。

幼児はよくイマジナリーフレンドと呼ばれる空想上の友達を作ることがあるのだが、それを知らなかったKさんは少し心配になった。

(寂しくて、白日夢でも見るようになったのかな?)

だが、ふと柵の向こうを見ると、雨も降っていないのに用水路のコンクリートの溝や陸地の石が点々と濡れている。確かに人間か、大きめの獣が飛び込んだり、駆け上がったりすることを繰り返した痕跡のように見えた。それで娘の話を信じる気になったという。

それから一週間が経ったが、娘がその姉弟と再会することはなかった。

ところで、同じ公営住宅に七十歳の老婆が夫と二人で暮らしていた。この老婆は認知症を発症していて、夕方帰宅したKさんに「おはようございます」と挨拶をしたり、近所に散歩に出かけて自宅の場所がわからなくなり、「私の家はどこでしょう?」と道行く人に助けを求めたりしていた。

普段は三つ年上の夫が面倒を見ていて「危ないから、一人では外に出るなよ」と注意していたが、二十四時間見張り続けることはなかなか難しい。夫が所用で外出したり、世話に疲れてうたた寝をしてしまうと、老婆はその隙に家を出て近所をうろつくのである。同じ年頃の人々とはあまり関わろうとせず、幼児と公園で遊ぶ姿がよく見られるようになった。子供が好きというよりも、知能が幼児と同じ程度か、それ以下になっていたらしい。

ある日老婆は、連れ戻しにきた夫に向かって幸福そうに笑いながら、こう言った。

「今日は七つぐらいの女の子と、三つぐらいの男の子が遊んでくれたんだよ。明日も一緒に遊ぼうって、約束したんさぁ」

「馬鹿。一人では外に出るなと言ったろうが」

翌日、夫は朝から晩まで見張るつもりでいた。しかし午後になると無性に眠くなってきて、どうすることもできず、椅子に座ったまま、うたた寝をしてしまう。

老婆はその隙に家を出て、それきり行方を晦ましてしまったのである。夜になっても戻ってこなかったので夫が騒ぎ出した。

「うちの女房を見ませんでしたか?」

と、公営住宅の住民たちに訊いて回ったので、Kさんも初めて事情を知ったそうだ。

すると、公営住宅に住む子供たちが口々に、

「あのお婆ちゃん、今日、公園で知らない子たちと遊んでたよ」

「女の子と男の子の、姉弟みたいだったよね」

「でも、いつの間にか、いなくなっちゃったんだ、三人とも」

などと言い出した。

有志が捜索を行うことになり、Kさんも加わったが、老婆は朝になっても発見されなかった。三日間発見されず、四日目になって、老婆は五キロほど離れた里山の沢沿いで、野鳥の観察に来た人々によって発見された。俯うつぶせに倒れていて、最期はひどく苦しんだのか、真っ白に変色した顔は醜く歪み、飛び出さんばかりに目を剥いて死んでいたという。

警察が検視を行った結果、遺体に外傷がなかったことから〈認知症で徘徊し、急性心筋梗塞を起こして病死したのであろう〉と判断されたのだが、老婆の遺体の近くには川砂を握り固めて作った団子が十個ほど置いてあった。まるでままごと遊びでもしていたかのように──。

子供たちが見たという姉弟は発見されず、どこの子なのか、わからずじまいになった。

この話を老婆の夫から聞かされたKさんは、

(うちの娘が会ったという姉弟に連れていかれたのだろうか?)

そう思わずにはいられなかった。そして老婆とその夫を気の毒に思う一方で、あのとき、うちの娘が連れてゆかれずに済んで本当に良かった、と密かに胸を撫で下ろしたという。

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