放課後の謎(群馬県高崎市) | コワイハナシ47

放課後の謎(群馬県高崎市)

昭和五十年代、高崎市街地の小学校では〈ハンドベース〉と呼ばれる遊びが少年たちの間で流行していた。ソフトボールに近いルールで、道具はゴムボールしか使わない。投手はゴムボールを下から投げ、打者は素手で打つ。野手も素手で捕球し、走者にゴムボールをぶつけるか、ベースを先に踏むとアウトになる、というものであった。当時、小学五年生だったA男さんは、放課後に校庭で級友たちとそのハンドベースをして遊んでいた。

すると、空から大きな鳥が急降下してきた。級友の一人が大声を出しながら上空を指差したので、A男さんもそちらを見た。それは一羽のトビであった。トビは少年たちの頭上を通過すると、校舎の二階の窓枠に舞い降りた。

「うわ、トンビだ!」

「でっけえ!」

当時の高崎市街地では、空高く舞うトビの姿がよく見られたので、珍しい鳥ではなかったが、人間を警戒して地上近くまで降りてくることは滅多になかったのである。都市部で育った少年たちが、その大きさに目を瞠みはったことは言うまでもない。このときトビが留まった窓は開け放たれていた。その校舎は一階が職員室と保健室、二階は音楽室と視聴覚室がある棟で、窓は廊下の突き当たりにあった。

A男さんは、トビが校舎に入り込むのではないかと思ったが、トビは窓枠の上で身体の向きをくるりと変え、こちらを見下ろした。

と、そこへ──。

背後から忽然と何かが現れ、トビの両足の付け根を掴んだ。トビは驚き、翼を広げて窓枠の外側へ飛び出してきた。そのためトビを掴んでいたものも見えたのだが、それは人間の逞しい両腕であった。浅黒い肌が上腕まで露出している。筋肉が盛り上がり、ボディビルダーかプロレスラーを思わせる太さがあった。トビは羽ばたいて激しく抵抗したが、両腕は手を放すことなく、やがてトビを廊下に引き込んでしまった。

「捕まえた!凄え!トンビを素手で捕まえたぞっ!」

少年たちは大騒ぎになった。A男さんは、男性教師の誰かだろう、と思ったという。

「行ってみようぜ!」

A男さんは正面玄関へ向かって駆け出していた。正面玄関で上履きに履き替えると、職員室の前にある階段を駆け上がった。あとから五、六人の級友がついてくる。

ところが、二階の廊下には誰もいなかった。トビの姿もなく、羽根さえ落ちていない。A男さんが窓際まで進んで校庭を見下ろすと、七、八人の級友がいたので訊いてみた。

「トンビがいないんだあ!逃げてったのかなあ!?」

「いやあ!こっからずっと見てたけど、逃げてねえよう!」

「じゃあ、トンビはどこ行ったんだ?」

「それにさぁ、あれ、誰の腕だったんだよ?」

ますます大騒ぎになり、勇気のある者が音楽室と視聴覚室の扉を開けて中を覗いたが、誰もいなかった。一階へ下りてゆくと、担任の女性教師が職員室から出てきて注意された。

「何を騒いでるの。そろそろ下校時間になるから帰りなさい」

そこでA男さんは経緯を説明したが、女性教師は笑い出した。

「トンビを……?そんなことができる人、いるわけないでしょう」

トビの行方のみならず、両腕の主が誰なのかも、わからずじまいとなった。あとになって考えてみれば、あの学校には大柄な男性教師が何人かいたが、あれほど太くて日に焼けた腕を持った者はいなかった。用務員や事務員にも思い当たる人物はいない。おまけに他の少年たちの話を聞いてみると、両腕の主の顔や胸などを見た者は誰もいないことがわかった。二本の腕だけが空中から突き出しているように見えたらしい。

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