黄色のレインコート(群馬県甘楽郡下仁田町) | コワイハナシ47

黄色のレインコート(群馬県甘楽郡下仁田町)

群馬県西南部に位置する甘楽郡下仁田町は、稲作に向かない山村だが、水はけの良い、南向きの傾斜地が多いことから、下仁田ネギとコンニャク芋の栽培が盛んである。下仁田ネギは一般的なネギよりも太く短く、辛くて生食には適さないが、火を通すと甘みが出て柔らかくなり、とても美味しい。また、下仁田町をはじめとする群馬県産のコンニャク芋は、全国における生産量の九十パーセント以上を占め、ぶっちぎりの第一位である。

さて、この町には東隣の甘楽町との間に、古来から養蚕や五穀の神を祀る山として信仰されてきた稲いな含ふくみ山やまがある。

下仁田町在住で六十代の女性S村さんは、その山へ婦人会の仲間たちと登山に行った。婦人会は中高年の女性が中心で、山村に住んでいるとはいえ、普段は登山をしない人も多い。S村さんもその一人であった。険しい場所もある山なので、一行は頻繁に休みながら時間をかけて山頂を目指していた。

S村さんは休憩する度に、視界の隅のほうに黄色いものが現れることに気づいた。それは登山道から外れた森の中で動いていて、S村さんがそちらを見ると消えてしまう。初めは目の錯覚かと思っていたが、何度も同じことが起こるので気になってきた。

「あの黄色いのは何かねえ?さっきから、ちらちら見えたり消えたりしてるんだけど」

と、仲間たちに訊いてみたが、誰もが首を傾げる。

「そんなの、どこにも見えないよ」

S村さんは不思議に思い始めた。

やがて登山を再開した一行は鎖場に到達した。鎖を頼りに斜面を登ると、右手に金属製の柵が見えてくる。それが一旦途切れた場所の左手に地蔵が鎮座していた。その先にまた柵が続いているのだが、S村さんは柵の向こうの斜面に小学校低学年くらいの少女が立っているのを認めた。無表情で、晴れた日だというのに、黄色のレインコートを着ている。

(あれ?何であんな所に小さな子がいるのかね?しかも一人で、危ないじゃないの)

心配しながら近づこうとすると、あと数メートルのところで少女の姿は消えてしまった。

「……ねえ、今の、見た?」

「何が?」

やはり仲間たちには少女の姿が見えていなかった。

ところで、稲含山には山頂の少し手前に稲含神社がある。小さな神社で神職は常駐していないのだが、たまたまこの日は来ていたので、S村さんは「さっき不思議なことがあったんですよ」と黄色のレインコートを着た少女の話をしてみた。

神職は何度も頷いてから説明してくれた。

「お地蔵様が建っていたでしょう。何であれを建てたかというと、昔、あの辺で滑落事故が起きたからなんですよ」

昭和五十六年に地元に住む小学生の少女が死亡していたのだ。一見、風情を損なうような金属製の柵も、それを切っ掛けに設けられたものだという。

S村さんは事故のあとに下仁田町に嫁いできたので、詳しいことを知らなかった。事情がわかると、少女のことは怖いというよりも、気の毒に思えてならなかった。下山の際に再び少女と出会うことはなかったが、地蔵の前で手を合わせて帰ってきたそうだ。

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