車に乗ってもいいですか?(群馬県) | コワイハナシ47

車に乗ってもいいですか?(群馬県)

二十代の男性M井さんは飲食店で働いている。六月の夜、彼は仕事が終わってから他の若い従業員と六人で心霊スポットへドライブに行くことになった。車はM井さんと、Uさんという男性がそれぞれの愛車を運転する。あとの四人は若い女性で、二人ずつ二台の車に分乗した。

行き先はM井さんの希望により伏せるが、山の麓にある広い公園で、夜間でも自由に出入りができる。途中の道路沿いに地蔵が祀られた場所があり、その横を通過すると、まもなく目的地に到着した。駐車場で車から降りれば彼らの他に人気はなく、虫の声が聞こえてくるばかりである。懐中電灯を点けて遊歩道がある雑木林の中を歩き回ったが、何も起こらなかったので、別の心霊スポットまで行ってみよう、ということになった。

そのとき、Uさんの車に乗ってきた女性の一人、A子さんがこう切り出した。

「すみません。今度は私たちがM井さんの車に乗ってもいいですか?」

ところが、M井さんの車に乗ってきた女性たちも譲ろうとしなかった。

「え~っ、あたしたちもM井さんの車に乗りたいですう!」

結局、四人ともM井さんが運転する車に乗ることになった。彼はうれしい反面、苦笑を禁じ得なかった。だが、当然のことながら、Uさんは面白くない。

「何で……?俺、何か悪いことでも言ったかい?」

「いや、そうじゃないんです。でも、何となく、その……」

A子さんは口籠るばかりではっきりした理由を言おうとしなかった。

「ちっ、嫌ならいいよ!嫌なら!」

Uさんは吐き捨てるように言うと、一人で愛車に乗り込み、エンジンを掛けた。M井さんがエンジンを掛けている間に待つことなく車を発進させ、先に行ってしまう。M井さんはすぐに追いかけたが、Uさんは相当速度を出しているのか、なかなか追いつけなかった。この辺りは雑木林の中を通る山道で、カーブが連続している。その中でもとくに大きなカーブを曲がろうとしたとき、道路から五、六メートル下に光るものが見えた。

「蛍の光かな」

M井さんは気にせずに通過してしまった。それから速度を上げてしばらく追いかけたが、やはり追いつくことができなかった。

「どこまで行っちゃったのかねえ?」

彼の言葉にA子さんたちも首を傾げる。真っ暗な見通しの悪い道なので、さほど速く走れるとは思えない。そこでM井さんは先程見た光を思い出した。

「もしかしたら、まずいことになったのかも……」

車をUターンさせてみたところ、悪い予感が的中した。先程のカーブの手前で車から降りて様子を見に行くと、道路の下が谷になっていて、車のヘッドライトらしきものが光っている。M井さんは懐中電灯を持って斜面を下っていった。

谷底に車が転落している。Uさんの車だ。大変なことになった、と思ったが……。

「おおい!大丈夫かあ!?」

M井さんが声をかけると、暗闇の向こうから小声で返事があった。

「おう……。やっちまったよ……」

見ればUさんが車の横に呆然と座り込んでいる。意外にもUさんは無傷だったが、車の左側に当たる助手席と後部座席は大きな岩に激突して、完全に潰れていた。もしもそこに人が乗っていたら、即死していたことだろう。すっかり意気消沈しているUさんに代わって、M井さんは携帯電話でレッカー車を呼んだ。

長いこと待って、ようやくレッカー車が到着すると、その作業員がこう訊いてきた。

「こんな時間に大勢で何してたんだい?」

M井さんが事情を説明すると、作業員は苦笑いを浮かべた。

「この辺りは自殺が多いので、引き込まれたのかもしれないよ。ついこないだも、森の中で女の人が首を吊っていたっていうし、夜中に一人で車を運転してると、後ろの席に女の幽霊が乗ってくる、なんて話も聞いたことがあるから」

それが本当に事故の原因だったのか、否かは不明である。とにかくUさんもM井さんの車に乗って帰ることになった。五人乗りの車なので定員オーバーになってしまうが、仕方がない。女性四人のうち、三人は小柄で痩せていたので、一人がもう一人の膝の上に乗って後部座席に何とか座ることができた。その車内でA子さんがこんな話をした。

彼女はこの近くに祖父母の家があって幼い頃から頻繁に訪れているのだが、道路沿いにぽつんと一体だけ、首から赤い前掛けを提げた地蔵が置かれている。かなり古いものらしく、長年の風雨に削られて目鼻はすっかり消失している。その存在が小学生の頃から何となく気になって、いつも通過するときにじっと見てしまうそうだ。

この地蔵、普段は南側を向いている。しかし、今夜通過したときは、なぜか一八〇度回転して北側を向いていた。十数年の間で初めてのことだったという。

不可解に思った途端、寒気が背中を走った。A子さんはUさんの車の助手席に乗っていたが、どうしても降りたくなってきた。それを公園に着いてから同乗していた女性に耳打ちすると、同じように「あたしも、さっきから何だか落ち着かないの」と口にする。

「それでUさんには悪いと思ったけど、M井さんの車に乗りたいと言ったんです」

その結果、Uさんの車の助手席や後部座席には誰も乗らずに助かったことになる。

やがてM井さんが運転する車は、A子さんが話していた地蔵の前までやってきた。

なるほど地蔵は北側を向いている。M井さんもそれを見た瞬間、寒気を感じたので、帰路の運転は十分に用心した。

それから二週間後。

M井さんはたまたま昼間にこの近くを通る機会があった。そこで少し寄り道をして地蔵の様子を見に行ってみることにした。車を徐行させて確認すると、二週間前とは一変して、地蔵は南側を向いていたという。

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