七年間(東京都練馬区) | コワイハナシ47

七年間(東京都練馬区)

Hさんは東京練馬区の出身。ところがHさんが中学生の頃、父親の仕事の関係で愛知県に引っ越した。その間、練馬の家はおばあちゃんひとりで留守を預かっていた。

七年経ってHさんの家族は練馬の家に戻った。

Hさんにとって懐かしい家。さっそく以前自分が使っていた二階の部屋に入った。

雰囲気がまったく違う。

(これ、私の部屋だったのかしら……)と思う。

「おばあちゃん、二階の部屋、どういう使い方してた?」と聞くと、

「使ってないよ。階段の上り下りも大変だし、使うことなんてないし」と言う。

二階は先日掃除のために上がった以外七年間誰も上がっていなかった。

ある日の夕方、Hさんが部屋でくつろいでいると、下の部屋から楽しそうな笑い声がどっと湧く。そして話し声が聞こえてまた、どっと笑う。

(あら、みんな楽しそうね)と思うと、その話の中に加わりたくなって、あわてて階段を降り、ガラッとリビングの扉を開けた。

と、お母さんひとりだけ。

「あらっ、みんなは?」

「みんなって?」

「お父さんや妹は?」

するとお母さん「お父さんこんな時間に帰ってくるわけないじゃない。それに妹はクラブだし」と言う。

確かに、お母さん以外に誰もいない。でも、聞いたのだ。楽しそうな話し声や笑い声を。それは階段を降りて、リビングの扉を開けるまで、ずっとしていたのだ。

そんなことがたびたび起こる。

かと思うと夜遅く、風呂場から音が聞こえる。カッポーン、ザッパーンと肩に水をかける音。たまに手桶を床に落とすこともある。

あるいは水道のカランの音。ジャー、キュルキュルキュル、クッ……。あまりに鮮明な音。ところがこの時も、階段を降りるまでは風呂場から音がするが、電灯が消えている、と気づいた時には、音はしなくなる。で、誰かが実際に風呂に入っている時は、二階に音が届くことはないのだ。

「何だかこの家、気持ち悪い」と思うようになる。

そしてHさんが変な音にようやく慣れはじめたある日、部屋で昼寝をしているとタシッ、ペシッという音がして、はっと目覚める。

(何の音?)とよく聞くと、天井から聞こえてくる。家鳴りにしては音が軽いと思っていると、いつのまにか音が移動している。注意して音のする方を目で追いかけていくと、音のする天井板が凹へこんでいく。

(やだ。誰かが天井裏を歩いてる)

誰かが部屋の天井を対角に向かって歩いたあと、振り返って来た方向に歩いていく。

(何やってるんだろう?)と見ていて、妙なことに気がついた。

天井板が上に向かって凹むのだ。だから板によっては蓋が開くように持ち上がってもとに戻る。

(天井裏じゃないの?どういうこと?)と思わず目をこらすと、うっすらと天井板に張りついた逆さまの足首が見える。

その足首の乗った板だけがタシッ、ペシッと持ち上がる。

(もうだめ)と部屋から逃げ出そうとした時、ふっと音と気配が消えた。

今すぐにでも家を飛び出したいほどの衝動に駆られたが、不思議なことにこの日を境に妙な物音は急に鳴りをひそめはじめて、帰ってきてから不在期間と同じ七年目を迎えた頃には以前の家に戻ったという。

七年間の空白は、一体何を二階に棲まわせたのだろう。

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