林家小染さんにまつわる話 (大阪府) | コワイハナシ47

林家小染さんにまつわる話 (大阪府)

四人そろった(大阪府)

もう十数年も前のことになる。

K子さんという女子大生が、大阪の某テレビ局でアルバイトをしていた。その日は吉本興業の特別番組の予定が組まれていた。生放送で所属のタレントさんたちに「暇やったら、テレビ出たかったら、どんどんスタジオへ来てや!」と呼びかけるという内容だった。

たくさんの漫才師、噺家、コメディアン、喜劇役者がスタジオに顔を見せた。

放送が終わって、K子さんはアルバイト仲間と控え室に戻った。

「今日は、ぎょうさんのタレントさん、来てはったねえ」

「ほんまやね。あの人、テレビで見るより男前!」

などと、女の子同士話が盛り上がる。

K子さんもその話の輪に入った。

「ねえねえ、久しぶりにあの四人、そろったねえ」

「四人て?」

「ザ・パンダの四人やん。みんなそろってんのって久しぶりやん」

すると聞いてた女の子たちの表情が変わる。

…………

「そろうわけないやん」

「そろってたやん。八方さん、きん枝さん、文珍さん、小染さん、みんなおったやん」

「……K子、小染さん、死にはってんで」

「?や。見たよ、私。紫色の着物着て、扇子広げて、いつものニコニコ顔でパタパタ扇いではったやん」

「ほんまに死んだんやって……」

K子さんは噺家の小染さんの事故死を知らなかった。

その頃、ちょうど受験勉強の真っ最中で、新聞もテレビも見ていなかった。

しかし、確かに見た!

誰かが小染さんと親しかったタレントさんを呼んできた。

「あんたか?小染さん見たって?」

「ええ、見ました。八方さんの隣に立ってはりました」

そのタレントはしばらくうつ向いたまま動かなかった。

「そうか……、やっぱり出たか……でもまあ、あんまりそのこと、言わん方がええで。ええか、言いなや」と注意された。

「もしかして小染さん、自分が死んだんわからへんねやろか」

と、誰かがつぶやいた。

あんた死んでんで(大阪府)

しばらくすると小染さんを見た、という話があちこちで囁かれはじめた。

ある噺家さんが舞台で高座を一席つとめている時、ふっと上手に目がいった。舞台袖に小染さんが立って、じっとこちらを覗のぞいている……。

そういうことが、よくあったと言う。

小染さんと親しかったあるタレントさんから、こんな話を聞いた。

小染さんが亡くなって間もない頃のこと。

このタレントさんが東京のホテルに泊まった。

真夜中、ふっと目が覚めたら、小染さんがベッドの脇に立っている。生前彼がよく着ていたピンク色の高座着。

「あっ、小染はん!」と思わず声を出したら、小染さんは急にバタバタと巨体を揺らして部屋の中を走り回りだした。

「わあーっ、やめなはれ、何すんねん!」

しかし小染さんは、走ることなどとてもできないこの狭い部屋を、どういうわけだかバタバタ音を立てながら走り回る。この恐怖に襲われたタレントさんは仲間に電話をした。

「俺やあ、今、わしのベッドの周りを小染はんが走り回っとる!ホンマや!聞こえんのか!この音!」

バタバタバタ、まだ小染さんは走っている。

「小染はん、ええかげんにせえ。あんた死んでんで!」

思わず大声をあげると、小染さんははっとした顔をして、枕元の電気スタンドの裏へ霧のようになってすうーっと消えたという。

後ろのパネル(大阪府)

大阪深夜のローカル番組で小染さんの追悼特集が放送された。

小染さんの生前の高座姿が引き伸ばされた大きなパネルが用意され、それを司会者のすぐ後ろに吊つり下げた。

本番がはじまる。司会をはじめとして、先輩の噺家、弟弟子、漫才師など小染さんと親しかった芸人さんたちが集まって、小染さんの在りし日を偲しのんだ。

すると、後ろに見える小染さんの大型パネルが、ゆっくり、ゆっくり左右に揺れ出した。

番組が進行するにつれて、小染さんの話題で盛り上がる。

するとパネルも、自分の話題が嬉うれしいかのように、ゆらゆらと揺れが大きくなっていく。

CM休憩の後、小染さんの生前の高座姿がVTRで流れる。

そしてスタジオに切り替わった時、揺れがもっと大きくなっていた。

ゆうら、ゆうらと左に右に。

さすがに出演者たちも、そのことに気づきはじめ、ちらちらと横目でパネルを見る。

一方、テレビカメラも意識してパネルを写さないようにしはじめる。

スタジオの空調のせいではない。

映るたびに、前にも増して大きく揺れる。

先輩の噺家が、あの世の小染さんに言葉を送る時、その揺れはTV画面の右から左へ横切るまでになっていた。

そして最後、小染さんの弟弟子の〆しめの言葉。

「天国で、おいしいお酒を、楽しんでください」

すると、ぴたりとパネルの動きは止まったのである。

私は今も、その番組の全編を録画したビデオを大切に保管している。

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