第三診察室(大阪市) | コワイハナシ47

第三診察室(大阪市)

大阪市の郊外に元病院だった建物がある。

もう十年以上も前のこと。当時高校生だったMさんは、ここに友だち数人と探検のつもりで入り込んだことがある。その時の話だ。

入ったのは夕方だった。廃院になってからまだ間がなかったせいか、思ったより中は荒れていなかった。

長い廊下や階段を歩いて、各部屋の戸棚を開けたりしているうちに暗くなってきた。明かりを持ってきていないので、自然と帰ろうという気になって玄関に向かって歩いていると、「あっ、ひとりおらん、そや、Kは?Kどこ行った?」と誰かが声を上げた。そういえばK君の姿がない。

「おーい、K、どこ行ったあ!」

反響する院内。

返事がないかと耳をすましていると、どこからともなく人の話し声が聞こえてくる。

小さいが、もそもそっ、もそもそっ、と話す声のようだ。

「Kかな?」

「そらそうやろ。でもKやとして、オレら以外の誰と話してるんや?」

誰と聞いて、鳥肌が立った。

「とにかく、声のする方に行ってみようや……」

おそるおそる、その声に近づいていく。

話し声がはっきり聞こえる。

《第三診察室》という札が掛かったドア。

薄暗い診察室の丸椅子に、K君が腰掛けている。

上着を脱いで、上半身はシャツ一枚。そのシャツも胸までまくりあげて、誰もいない正面の肘ひじ掛け椅子に向かって何かを言っている。

「はい、はい。そういえば最近食欲ありません。いや、そんなことはないです……」と、同じ言葉を繰り返している。

「K、何しとんねん!」

Mさんが大声を上げてK君に近寄った。

「なにって、先生に診みてもろてるんやんけ」とK君は怒って答える。

「お前、大丈夫か?」と、頰を二、三発ひっぱたくと、ふっとK君が気絶する。

「変や。はよ、連れて行こ」

あわててみんなでK君を抱きかかえて病院を出た。そしてK君を家まで送った。

その翌日からK君は学校へ来なくなった。

家に連絡してみると、熱を出して寝込んでいるらしい。

それが五日も続いたので、心配になってMさんたちは見舞いに行った。

するとお母さんが出てきて「ああ、ごめんね、Kは今、病院に行ってるのよ」と言う。そういえばK君のバイクがない。

「どこの病院ですか?」

「いつものS病院やと思うけど」

S病院なら近い。「ちょっと行ってみます」とみんなでS病院へ行った。ところが受付で聞いても、K君は来ていないという。

K君の家に電話してみる。

「おばさん、S病院には行ってないみたいですよ」

「あら、そう?おかしいわね。あんたたちが来てくれるほんの三十分ほど前に、病院行くって。保険証も持っていったから、病院には違いないと思うけど」

「病院……?まさか」とひとりが言う。

みんなで例の廃院へと向かった。

建物の前に一台のバイクが見えた。

「やっぱりK、来てるわ」

中に入ると、やはり第三診察室の方から話し声が聞こえる。

前に出た時に開け放したままだったはずのドアが閉まっている。

少し開けて覗のぞくと、シャツを胸まで上げたK君がひとり丸椅子に掛けている。

「はい、そうですか。じゃあ大事をとって入院ですか」

K君は無人の肘掛け椅子に向かって、何度も何度も同じ言葉を繰り返している。

「Kっ!しっかりせえ!」

再びK君をみんなでかかえて外に出た。

タクシーでK君を連れて帰った。

ご両親は気味悪がったがその一連の話を納得してくれて、お父さんはKを当分部屋から出さないようにする、と約束してくれた。

それから、K君は二度と学校へ来ることはなかった。

一体、K君に何があったのか。家に連絡してみても、お母さんは「Kは療養中です」と繰り返すばかりだ。そしてそのままMさんたちは卒業し、そのこともいつしか忘れてしまったという。

数年後、街中でMさんはK君と偶然会った。

瘦せてはいたが、紛れもないK君だった。

「あれからどうしてるんや」

「今、病院通うとるねん」

そしてそのまま別れたという。

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