かおりちゃん(大阪府) | コワイハナシ47

かおりちゃん(大阪府)

N君が五歳の時、ある夢を見た。

自分と同じ年頃の女の子がいる。ピンクのワンピースに肩までの髪の毛。名前をかおりちゃんと名のった。そのかおりちゃんと夢の中で何かおしゃべりをした。

このかおりちゃんが毎年一度か二度、夢に現れる。そのたびに何かをおしゃべりする。

詳しい内容は思い出せないが、友人のことや勉強の悩みをかおりちゃんに聞いてもらって、そのアドバイスをもらっているような気がする。

中学生になっても高校生になっても、かおりちゃんは夢の中に現れて、悩みを聞いてくれる。ところが、かおりちゃんはずっと五歳のままで、高校生になったN君と五歳の女の子が何の違和感もなく、対等に話をした。

そのN君も今や二十四歳になった。

去年の夏のこと。

仕事に行こうとN君は大阪の天王寺から地下鉄に乗った。行き先は梅田。いつもは御堂筋線を利用しているが、この日に限ってなぜか谷町線に乗った。電車は空いていた。シートに腰掛けたN君は雑誌を読みはじめた。

二駅ほどして、親子連れが乗り込んで前のシートに座ったようだったが、気にせず読み続けた。

南森町の駅を過ぎた頃、ぬいぐるみがN君の足元に転がってきた。拾ってあげようと手を出した時に、取りに来た女の子と目が合った。

どきっとした。

(かおりちゃんや!)

夢のかおりちゃんと同じ顔だ。

幼い女の子。ピンクのワンピースに肩までの髪の毛。間違いはない。ところが女の子は、ぱっとぬいぐるみをつかむと、母親の隣のシートに戻った。

(おいおい俺や俺や、何で無視するんや。知り合いやんか)

N君のそんな気持ちは全く通じない。

(でも、ほんまにあれはかおりちゃんなんやろか……)

疑問と好奇心が湧いた。そうだ、隣の母親があの女の子の名前を呼ばないだろうか?

電車は東梅田に到着したが親子は降りる気配はない。N君は本来はこの駅で降りなければいけない。何としてもあの子の名前が知りたい。親子の会話に耳を傾けるが、なかなかお母さんは女の子の名前を呼ばない。

(どうしよう、仕事がある)

N君は仕方なく次の都島駅までで諦めることにした。するとその親子も都島駅で降りる支度をはじめた。その時女の子がぐずった。

「何してるの?かおりちゃん、もう降りるのよ」

それがかおりちゃんを見た最後になった。

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