天狗と会った男(千葉市) | コワイハナシ47

天狗と会った男(千葉市)

Tさんはラジオの製作会社に勤めている。彼と初めて会ったのは数年前のラジオ番組の収録の時だった。某大手企業がスポンサーを務める某FM番組に出た筆者は、出演を終えた後、親しい放送作家と雑談に興じていた。すると、その放送作家が奇妙な話をはじめた。

「山口さんが来たら言おうかなと思っていたんだけど、うちのスタッフに天狗に会ったって言う奴がいるんですよ」

「えっ、天狗ですって?」

筆者は動揺した。過去に兵庫の宝塚市に在住する学生から、祖父が鞍馬山で天狗に会ったという話を聞いたが、体験者本人から直接天狗との遭遇談を聞く事はなかったからだ。「その話、聞きたいなぁ、ぜひ一席設けてくださいよ」

こうして筆者は、放送作家とスタッフ数名で食事会を行った。やや遅れてやってきた三十代の男性スタッフ・Tさんは、巨大な包みを抱えていた。どうやら奥さんと一緒に自宅から運んできたものらしい。

「どうしても山口さんに見てもらいたい絵があるんです」

興奮気味に包みの中から大きな絵を取り出した。そこには緻密に描き込まれたカラス天狗のような者の姿が描かれていた。

「ぼっ、僕が見た天狗を描いたものです!」

彼は小学生の時、千葉市の自宅において天狗と遭遇したそうだ。大晦日の夜に家族でテレビを見ていると、玄関でチャイムが鳴った。

ピンポーン。

(あっ、お客さんだ。お年玉がもらえるかもしれない)

Tさんと妹はお年玉を目当てにして、玄関に向かってスタートダッシュをした。

「こんばんは」

勢いよく挨拶をしたものの、大晦日にきた客は何も言わないで玄関に仁王立ちしている。しばし流れる重たい沈黙。薄暗い中で無言のまま立ち尽くす黒づくめの客。その客の背中からは複数の手が生えていた。そのうえ、口にはくちばしがついており、まるでカラスのような顔をしていた。Tさんと妹はその客を凝視した。

「………」

薄暗い大晦日の玄関に悠然と浮かび上がるカラス天狗の姿。夢なのか現実なのかわからない体験により、Tさんと妹はぼう然と立ち尽くした。その後の記憶は無い。

以来、Tさんはものすごく天狗に執着するようになった。全国各地の天狗の伝承が伝わる場所を訪ね、インドには天狗のモデルとされるカルラ神が祀られた寺院を訪ねていった。

「山口さん、僕はあの後どうなったのか、とても気になるのですよ」

彼の問いに対して、筆者はすかさず回答した。

「それだったら、ヒプノセラピー(催眠療法)を受けて退行催眠を体験したらどうですか?」

「ヒプノセラピーですか?」

後日、筆者は友人が経営するヒプノセラピールームを紹介した。

この出来事から数年が経った。

「電気グルーヴ」のピエール瀧さんが出演しているラジオ番組から出演オファーが来た。船橋の筆者の事務所までインタビュー班が来てくれたのだが、その時のスタッフがTさんであった。

「お久しぶりです。あの後、敏太郎先生が勧めてくれたヒプノセラピールームまで行ったんですよ」

「そうだったんだ。それで何かわかったかい?」

Tさんの話によると、ヒプノセラピーによって天狗に会った時の記憶まで遡さかのぼってみたが、その瞬間、なぜか意識が過去世に飛ばされてしまった。過去世には、卑弥呼のような宗教的指導者の女性に仕えるTさんがいた。ある時、日食が起こり、日本中が大混乱になった。太陽に重なった天空の月は、背後から無数に手が生えた黒いカラス天狗のように見えた。

「俺が出会ったカラス天狗は、この時の太陽なのかもしれない」

Tさんはそう思った。

「あの退行催眠の後、急に天狗への興味が失われました。あれほどこだわっていた天狗への想いが全くなくなってしまったのです」

Tさんは、カラカラと笑いながら事の顛末を語った。

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