玉の中(千葉県南房総市) | コワイハナシ47

玉の中(千葉県南房総市)

Rさんは、江戸川区で生まれ育った女性だ。企業を経営する父と専業主婦の母に育てられていたが、夫婦の間にはやがて隙間風が吹き始め、離婚に至ってしまった。

「お前は、ここで暮らせよ」

父親の実家は房総半島に位置する、ある町にあった。そこでは祖母が一人で暮らしていた。まだ幼いRさんは祖母と二人で暮らすようになった。

「ばあちゃん、あたしここにいてもいいの?」

Rさんは毎日祖母に聞いた。そのたびに祖母はやさしく笑って静かにうなずいた。

「いいんだよ。いいんだよ。ずっとばあちゃんのところにいなさい」

ちなみに、都内でベンチャー企業を経営する父親はたまにしか実家に帰ってこなかった。離婚した母親とは完全に縁が切れた。

「散歩に行こうかね」

夕方になると、祖母と一緒に田舎道を毎日のように散歩した。

夕暮れ時の房総半島は何とも言えない雰囲気があった。昼間と夜がせめぎあう夕暮れ時、夕日を見ながら祖母と一緒にとぼとぼと田舎道を歩いた。鼻歌を歌いながら祖母と歩くと、歩くたびに心の闇が夕暮れに溶けていくような気がした。

ある年の秋の夕暮れ、祖母の後を追いかけながらゆっくりと歩くRさんの目に不思議な物体が映り込んできた。直径一メートルほどの半透明の玉が三つばかり浮いている。

「あっ、あれはなんだろう?」

しばし、時間と空間が停止したような気分になった。虫の音が鳴り響いていたにもかかわらず、一瞬にして周りの音が聞こえなくなった。半透明の丸い玉は、風に流されることもなく、ふわふわと空中を漂っている。目を凝らしてみると、玉の中には子供が裸で丸くなって入っていた。他の玉にも老人や女性が裸になって丸まって入っている。玉の中に入っている人たちは、気持ちよさそうに眠っている。

「ばあちゃん、あれは何?」

ポツリと呟いたRさん。ゆっくりと歩みを止めた祖母は彼女の方を振り返ると、何とも言えない表情を浮かべてこういった。

「魂(たま)だよ。この時期はたまに飛ぶね」

そう一言だけ言うと、祖母は再び何事もなかったかのように歩き始めた。二人の上空をふわふわと少しずつ移動していく三つの玉。Rさんはその魂を見ながら再び祖母に聞いた。

「ばあちゃん、あの玉はどこへ行くの?」

そう聞かれた祖母は今度は振り返りもせず、ゆっくりと歩きながらこう答えた。

「銚子の浜に飛んでいくのさ」

ふわふわと浮かんだ三つの玉は、いつしか山を越えて遠くに消えていってしまった。

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